これからの時代を生き抜く人材の育成に必要な、教育の場とは
パネルディスカッションは政治、教育、企業それぞれの立場で教育の課題に取り組むリーダーが顔をそろえ、元日本マイクロソフトで現在はNPO法人 フォークローバーズの原田英典氏がコーディネーターを務めた。
パネリスト
- 経済産業省 教育産業室長 浅野大介氏
- 立命館大学 副総長 伊坂忠夫氏
- デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤昌宏氏
- 日本マイクロソフト株式会社 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏
前回の記事で紹介した通り、トップ10ファイナリストに選ばれた正頭教諭からは、教師として「Change Maker」であろうというメッセージが投げかけられた。これを受けてパネルディスカッションでは、教育の場はどう変化していく必要があるのか、これからの時代に求められる人材像を具体的に掘り下げていった。
グローバル人材に必須のコラボレーションの力
立命館大学の伊坂氏は、立命館が小中高大を貫き10年単位で掲げる学園ビジョンについて紹介した。2020年に向けて取り組んできた「R2020」に続く、2030年へ向けての「R2030」では「挑戦をもっと自由に~Challenge your mind Change our future」を新たなビジョンに掲げ、グローバル・シチズンシップを備えた人間を育てようとしている。
では、子どもたちがいずれ出て行く社会のひとつ、企業の現場では、現在どのような人材が求められているのだろうか。日本マイクロソフトの中井氏によれば、採用の際に必ず見るのはコラボレーションの力だという。高い専門性のある人でも、ひとりでモノ作りはできず、イノベーションも生まれない。日頃の評価も、自分の領域で完璧であることよりも、いかに周りの人を巻き込んで市場にインパクトを与えたかに注目するそうだ。ひとりで100点ではなく、みんなで120点を取れる力が求められている。
マイクロソフト自体が大変革のまっただ中で、「私たち自身が日々変革を迫られています」と中井氏は実感を込めた。かつては受験のように、ゴールに対して何パーセント達成したといったことが全ての評価軸だった時代もあるが、今は「何をそこから学んだか、その学びをどう生かしたか」が重視されるという。「学校でも数値で効果を計るのではなく、生徒が何を学んで、どういう次の学びがあったかが評価され、それが子どもたちの学びのモチベーションになる仕組みを作れたら良いのではないでしょうか」と指摘した。
企業の現場感がある話から、グローバル・シチズンシップに必要な要素がより具体的にイメージできた。
テクノロジーだけでソリューションは生まれない
グローバール人材に必須とされるテクノロジーについてはどう考えたらいいだろうか。デジタルハリウッド大学大学院の佐藤氏は「STEM」から「STEAM」への移行で加わった「A=Arts」の要素を重視する。「Arts」はリベラルアーツの意味であり、テクノロジーを何にどう使うかという倫理、道徳、哲学、審美等にわたる人間の判断力が重要だとした。
これを受けて経済産業省の浅野氏は、昨年度の「未来の教室」プロジェクトで採択された徳島県立徳島商業高等学校での事例をあげる。カンボジアの交通渋滞解消をテーマにしたプロジェクトでは、数学研究者の中島さち子氏と共に、交通渋滞の起きるメカニズムを数学的に分析した。ところが、カンボジアに交通量調査に行った生徒は、現地の人々の交通ルールに対する意識が非常に低いことに驚き、渋滞の数理的なメカニズムから渋滞解消方法を考えるだけでは不十分だと気づいたという。そこで、子どもへの交通ルール教育を対策に加えるなどしたそうだ。数理的なテクノロジー側からの理解と、人の倫理観など社会構造に関する気づきがかけ合わされてこそソリューションが生まれるという例だ。
マイクロソフトの中井氏も「共感(Empathy)」の力を人材像のキーワードに加えた。困っている人、苦しんでいる人が何を欲しいのかを理解して、テクノロジーがどう貢献できるかを読み取る力が重要とされているという。
テクノロジーで解決すると聞くと、いわゆる「理系」の技術力が求められているとイメージしやすいが、それに加えて、いわゆる「文系」的なものの考え方が必須で重要だというSTEAMの考え方が、さまざまな方向から語られる形となった。