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教育界のノーベル賞「グローバルティーチャー賞」歴代日本人入賞者3人が語る学びの形とは?

「バーキー財団 グローバルティーチャー賞報告会」レポート(前編)

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2019/07/17 07:00

 世界の教育に大きく貢献した教師を表彰する「グローバルティーチャー賞(Global Teacher Prize)」。6月2日、過去3年のファイナリスト経験者3名が集い、日本マイクロソフト品川オフィスを会場に報告会が開催された。本稿では、3人の先生からの発表を中心に紹介しよう。

日本人も3回入賞した「教育界のノーベル賞」

 今年の3月終わり、ドバイで華々しく開催されたグローバルティーチャー賞の授賞式のステージに、世界のトップ10ファイナリストとしてひとりの日本人教師が立っていた。立命館小学校で英語を教える正頭英和(しょうとう・ひでかず)教諭だ。日本ではまだあまり広く知られていないこのグローバルティーチャー賞は、イギリスのバーキー財団(Varkey Foundation)によって2015年に1回目の授賞式が行われて以降毎年開催され、今年で5回目を迎える。

 にわかにはイメージしがたいと思うが、授賞式前夜には人気のポップアーティストたちが出演する大規模なライブコンサートが開かれ、授賞式はヒュー・ジャックマンがホストしたと聞けば、そのきらびやかな空気を想像できるだろう。教育界のノーベル賞とも呼ばれ、賞金は100万USドルというから、そのインパクトは大きい。バーキー財団はすべての子どもたちが質の高い教育を受けられることを目指し教師の支援に力を入れており、これはその取り組みのひとつだ。漠然と教育全体というのではなく、教師の支援にフォーカスしているところが特徴的だろう。

 今回グローバルティーチャー賞を受賞したのは、ケニアのSecondary School(15~18歳対象)の数学・物理教諭Peter Tabichi氏。貧しく生活環境や教育環境が非常に厳しい地域で、自らの収入の多くを地域の支援に注ぎ子どもたちの教育に尽力し、限られた設備ながら国内外で注目される教育効果を上げたことが評価された。

 正頭教諭の受賞はかなわなかったが、トップ10ファイナリストとして世界の舞台で評価された意義は大きい。日本からは、2016年に初めてトップ10ファイナリストとして工学院大学附属中学校・高等学校の高橋一也中学校教頭(肩書きは現在)が選出され、2018年にはトップ50ファイナリストに滋賀県立米原高等学校 英語科の堀尾美央教諭が選出されている。

2019年トップ10ファイナリスト、正頭教諭の取り組み

立命館小学校 正頭英和教諭
立命館小学校 正頭英和教諭

 今回正頭教諭がエントリーした取り組みは、6年生が行った京都の町を軸にしたプロジェクトベースの学びだ。立命館小学校が立地する京都の観光地としての特長を生かし、代表的な建造物について調査から始め、英語でのリアルな観光案内、「Minecraft(マインクラフト)」での建築、Minecraft内での観光ガイドロボットのプログラミングなどを経て、Skypeで海外の学校から感想をもらうなどの交流をした。教科横断的に1年がかりとなるプロジェクトの随所で、自主性を育み英語を躊躇せずに喋るシーンを作ったのが特徴的だ。最終的に6年生120人全員が卒業時に行った英語のプレゼンテーションの様子を見ると、上位者のレベルは驚くほどで、英語学習の効果の高さがわかる。

正頭教諭が流した動画には生き生きとプレゼンテーションを行う児童の姿が
正頭教諭が流した動画には生き生きとプレゼンテーションを行う児童の姿が

 今回、正頭教諭の発表の中では、報告会の参加者が児童役としてMinecraftを活用した模擬授業を体験する場面があった。Minecraftはさまざまな立方体のブロックを使って町の建築などができる広い年齢層に支持されるゲームで、子どもたちにも人気がある。最近では教育版である「Minecraft: Education Edition」を活用し、マルチプレイで共同建築を行うグループワークを授業に取り入れる事例が増えてきている。

 模擬授業の際、正頭教諭がした指示は「この絵と同じ建物を建築してください」だけで、あとは本人たち任せ。この日は体験者4名のうち2名がMinecraftの経験者、残り2名は初心者だったので、早速使い方から教え合うことになり、そこで自然とコミュニケーションをとる状況ができ上がった。実際の授業では、建築中に英語しか使えないといった制限をかけることもあるそうだ。

正頭教諭から出された課題はいたってシンプルだ
正頭教諭から出された課題はいたってシンプルだ

 Minecraftでマルチプレイをすると、画面に見えている世界はそれぞれ自分の立つ位置からの視点なので、左右の概念や抽象的な指示では話が通じづらい。だから子どもたちは、座標などより正確な情報でコミュニケーションをとろうとするそうだ。英語だけでやりとりする制限をかけても、建築に夢中で英語の間違いなど気にせず伝えることに必死になるという。「こんな風に、ミッションと制限時間だけを提示すれば、子どもたちは共に作ることに集中し、自然とやりとりが生まれるのがMinecraftのポテンシャルです」と正頭教諭は語った。

「環境をデザインする」という教師の役割

 正頭教諭はこのプロジェクトに至るまでにも、Skypeで海外との文化交流などはしてきたという。しかし、そこで喋ることといえば自己紹介や自国文化の紹介。子どもたちがすぐに飽きてしまい面白みを感じていないことに気付き、共通の強いコンテクストが必要だと感じたそうだ。このプロジェクトには英語を喋る必然性がさまざまな形でデザインされており、子どもたちが生きた環境で英語を使ってきたことがわかる。

 意外なのは、正頭教諭自身はMinecraftをあまり使えないということだ。子どもたちの何割かはMinecraftをやったことがあるので困らないのだという。そして、「教師が生徒に知識を伝達するだけではなく、生徒が生徒に教えてもいい。その環境をデザインするのが教師の仕事だと考えています」と語った。

 立命館小学校の高学年では教科担任制を採用しており、英語専科教諭もいる。私立ならではの体制がこうした取り組みを行いやすくしている側面はあるかもしれないが、正頭教諭の「環境をデザインする」という視点は、どの学校のどの先生にとっても参考になり、すぐにでも真似のできるアプローチだろう。


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著者プロフィール

  • 狩野 さやか(カノウ サヤカ)

     株式会社Studio947のデザイナー、ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。著書に『見た目にこだわる Jimdo入門』(...

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