子どもたちが思い思いに活動する「バーチャルけやき」
──まずは「バーチャルけやき」がどのような場所なのか、教えていただけますでしょうか。
細田氏(以下敬称略):渋谷区には、もともと「けやき教室」という渋谷区教育センターが運営する相談指導教室があります。学校に通うことが難しい子どもたちに向けて、基礎学力の補充をはじめ、社会的自立の支援を行っています。
バーチャルけやきは、このけやき教室を3Dのメタバースで体験できるもので、2023年9月にスタートしました。不登校の児童生徒を対象としており、子どもたちは好きなアバターを選んでバーチャルけやきに参加し、自習スペースや交流スペース、相談スペースなどを利用することができます。Webブラウザ上で動くため、学校から貸与されているGIGA端末だけでなく、ご家庭のパソコンやタブレットなど、機種やOSを問わずアクセスが可能です。
10時から15時までの間は、教育センター所属の心理士や、けやき教室の職員など、3人ほどの支援員が常駐しています。参加した子どもは、友だちや支援員とおしゃべりしたりゆっくり休んだりと、思い思いの時間を過ごしています。また「推し活部」や「ビブリオバトル部」などのオンライン部活に参加することもできます。
──自習スペースもあるとのことですが、学習教材などは用意されていますか。また、学校の出席扱いにはなるのでしょうか。
細田:オンラインの学習ドリルやプログラミング教材などがあり、自分のペースで学ぶことができます。「気軽に立ち寄れる場所」を想定しているため、出席扱いにはしていません。
──渋谷区が、バーチャルけやきを始めた経緯を教えてください。
細田:昨年、文部科学省から発表された調査結果の通り、全国的に不登校の子どもたちが増加[※]しています。渋谷区でも、なかなか学校に行けない、かつ外に出ることも難しく、けやき教室にも参加できない児童生徒が一定数います。学校が連絡をしてもなかなかつながらないため、自宅での様子を知ることも難しい。私たちがただ「おいで」と言っても来られる状況にない子どもたちがいるのです。
そうした折、2023年度から東京都でVLPの事業が開始されました。渋谷区でも取り組んでみようと手を挙げたのが、バーチャルけやきの始まりです。
──実際の導入まで、どのようなステップで進めていったのでしょうか。
細田:導入にあたり、教育委員会としては実際に運用した際のリスクを最初に考える必要があります。例えば、メタバース内で子ども同士のトラブルが発生した場合や、学校の先生に反対された場合にどうするかといったことです。そのほかにも、この取り組みのために増員したわけではないので、誰が主となって運営していくかといった、人員の配置についても話し合いました。
また、当時はほかのメタバース導入の事例を見たことがなく、「不登校の児童生徒のためのバーチャルの居場所」というもののイメージが湧かなかったため、先行して取り組みを進めていた新宿区の「バーチャルつくし教室」を視察し、実際に体験させていただきました。そのうえで、2023年7月には心理士や各学校に派遣されているスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)に向けてバーチャルけやきの説明を行い、準備を進めていきました。
[※]出典:文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」P.20