はじめに
学校では、話し合い活動が極めて重視されています。その背景には、AIの台頭などにより社会が複雑化し、予測困難な時代を生き抜くために、新たな能力が求められていることがあります。知識を覚えるだけでなく、多様な人々と協力して答えのない問題に取り組む「生きる力」を育むことが不可欠となり、その力を養う最も効果的な学習活動として、話し合いが位置づけられているのです。
しかし、その重要な話し合い活動を、1人の教師がすべてのグループにわたって十分に把握することは、どんなに指導の技量がある教員でも、実質的には不可能と言っても過言ではありません。
実際、多くの先生方がこの点にもどかしさを感じており、筆者自身もこれまでうまくできた経験がありません。教室を巡回し、断片的に聞こえてくる会話から評価せざるを得ず、議論のプロセスを正確に捉えることは、複数の目で見とる研究授業ですら難しいのが実情でした。
ところが、GIGAスクール構想と生成AIの発展によって状況は大きく変わりました。子どもたちが1人1台端末を持つようになったことで、各グループの話し合いを録音し、その音声データをクラウドで集約し、AIで分析するという一連の流れが、学校で使っている無料のツールだけで実現可能になったのです。
この記事では、子どもたちの話し合いを録音し、GoogleのAIツール「NotebookLM」で分析することで、客観的なデータに基づいた指導を実現する具体的な方法をご紹介します。特別な機材や費用は不要で、「Google Workspace for Education」を導入しているGIGAスクール環境であればすぐに実践できる内容です。
これにより、今まで見えにくかった「話し合い」をデータとして可視化でき、話し合い全体としてどのような傾向にあったのか、グループごとにどのような議論がなされていたのか、また、活発だったグループや停滞していたグループはどこかなどを客観的に把握し、より的を射た指導やフィードバックにつなげることができるようになります。
「Padlet」で手軽に音声データを集める
まず紹介するのは「Padlet」を使った方法です。手軽に始められるため、最初の試みとしておすすめです。
教師の準備(ボードの作成と設定)
Padletを開いて「白紙のボードを作成」をクリックし、ボードにタイトルを入力します。フォーマットを選択して「列」を選び「完了」をクリックします。「セクションを追加」で、話し合う内容ごとに列を作成します。その後、右サイドバー「設定」をクリックします。

続いて「投稿フィールド」を開き、投稿欄をカスタマイズします。
「タイトル」を選び、「件名のプレースホルダーテキスト」に「グループ名やペア名を入力してください」といった説明を記入し、「必須」をオンにして「保存」をクリックします。「添付ファイル」を選び、「カスタム」をクリックして「オーディオレコーダー」のみをオンにし、「保存」をクリックします。「本文」を選び、「非表示」にして「保存」をクリックします。これで子どもたちが迷わず使えるようになります。

準備ができたら、右上の「共有」パネルを開き、「ボードへのリンクをコピー」をクリックします。このリンクを「Google Classroom」などで子どもたちに共有します。

子どもたちの利用(録音と投稿)
話し合いを始める前に各グループの代表者1名が共有されたPadletを開き、自分たちのグループの列にある「+」ボタンをクリックします。「件名」にグループ名を入力し、「オーディオレコーダー」をクリックして録音を開始します。このとき、端末をグループ全員の声が均等に入るよう、中央に置くとよいでしょう。
話し合いが終わったら、録音を停止し、右上の「再生&保存」をクリックします。必要に応じて内容を確認し、再度「保存」をクリックした後、「公開」をクリックします。これでボードに音声が投稿されます。

教師の作業(音声ファイルの収集)
すべてのグループの投稿が終わったら、Padletの「共有」パネルを開きます。下にスクロールし、「エクスポート」欄にある「すべてのファイルをダウンロード」をクリックします。ダウンロードされたZIPファイルを展開(解凍)すると、フォルダ内に全グループの音声ファイルが保存されています。これらのファイルを、次のステップであるNotebookLMでの分析に使用します。

活用のコツ
この方法の最大の利点は、操作が非常に直感的で、子どもたちがファイルを自分で保存・提出する必要がなく、教師の元にデータが自動的に集約される点です。
注意点として、Padletの無料プランを利用している場合、1回あたりの録音時間は最長5分間に制限されています。5分以内で完結する短い意見交換や、ペアでの対話活動などで試してみるのがよいでしょう。