大学は生き残りをかけて情報学部を新設
近年、少子化による過当競争を背景に大学経営は年々厳しさを増しており、私立大学の約半数は赤字だと言われている。特に、地方の大学や女子大ではその傾向が顕著である。その突破口のひとつとして、ここ数年、情報学部・情報学科の新設が相次いでいる。いわば、生き残りをかけた学部・学科の新設といえる。
その背景にあるのは、デジタル人材・IT人材の不足である。経済産業省は2030年に最大79万人のIT人材が不足すると予想しており、デジタル庁では2026年度まで230万人のデジタル人材を育成するとの政府目標を打ち出している。
文部科学省は、令和5年から「大学・高専機能強化支援事業」を立ち上げて情報学部・情報学科の新設等を強力に推進してきた。大学・高専機能強化支援事業とは、デジタル・グリーン分野における高度専門人材を育成するため、大学・高専の学部・学科転換などを支援する仕組みである。これまで、すでに3回の公募が実施され、令和5年公募(初回)で118件、令和6年公募(第2回)で97件、令和7年公募(第3回)で46件が選定されている(含むグリーン分野)。
つまり、この支援事業を背景に3年間で100校以上の大学が情報学部・情報学科の新設・増設・定員増を決定しており、素晴らしい成果といえる。この事業はデジタル人材・IT人材の不足という社会的ニーズを迅速かつ的確に捉えたものであり、非常に歓迎すべきことだと筆者は考えている。大学経営の観点からも「何か突破口を」と考えていた経営層(大学執行部)にとっては朗報であり、改革意識の強い大学ほど、この支援事業に飛びついたと考えられる。
大学におけるデジタル教育推進の背景として、一義的には以上のような社会的ニーズに応えるという側面があるが、もうひとつの側面として、急速に進展する小中高校のデジタル教育との連携にも注目する必要がある。教育は時系列的な流れで捉える必要があり、小中高校がデジタル教育へと大きく舵を切ったいま、その受け皿である大学の変革も必須となる。次に、そのことに少し触れたい。
小中高校の現状──動き出したデジタル教育
小中高校の学校教育にデジタル教育・IT教育を導入すべきだと言われて久しいが、昨今やっとそれが実現してきた感がある。いま学校教育の現場では、授業風景が大きく変貌遂げている。小中学校では、有名なGIGAスクール構想をはじめ、さまざまな取り組みが開始され、全国の子どもたちにタブレット端末が配布された。多くの地域では、小学校の低学年でタブレット端末にログインすることを教え、高学年では教育用のプログラミング言語を操っている。昭和育ちの筆者世代にとっては、隔世の感ある授業風景である。
高校では、2022年度から「情報I」の授業が始まった。この科目は今後の教育界、いや日本社会全体に大きなインパクトを与えると筆者は考えている。情報Iの教科書を見たことがあるだろうか? 内容的にはITパスポート試験を少し簡単にした程度であり、高校1年生が学習するには少し難しい内容といえるだろう。これをいま、すべての高校生が文系も理系も関係なく、1年次に毎週2時間学んでいる。また、2026年度の大学入学共通テストからはすべての国立大学で情報Iが受験科目となり、国立大学を目指す受験生は情報Iを必ず勉強している。このインパクトは非常に大きい。やはり日本人は受験科目に入ると真剣に勉強するのだ。
また高校では、「DXハイスクール(高等学校DX加速化推進事業)」も始まった。これは理系人材を増やすための施策であり、これにより大学への理系進学者が毎年2万人増えることになる。2024年度は全国で1010校、2025年度は1191校(継続含む)の高校がDXハイスクールに採択されたが、それに採択されるためには「情報Ⅱ」等の授業の開設、またはそれに向けた具体的な検討が必須要件となっており、高校でのデジタル教育がさらに進展することが期待される。