「単元内自由進度学習」とは何か
前回の記事でレポートしたパネルディスカッションの後に開催されたポスターセッションでは、全国各地の小・中・高等学校(公立・私立も混在)が「学習者主体・学習者中心の学び」についてさまざまな実践事例を報告。全部で9つのブースが設けられ、約20分の説明と質疑応答を3セット行い、来場者が各ブースを自由に回ることができる方式で実施された。
今回ポスターセッションで発表を行った学校は以下の通り。
- 宮城教育大学附属小学校 上杉泰貴氏、新田佳忠氏、金洋太氏
- 仙台白百合学園小学校 石原夕子氏
- 大熊町立学び舎ゆめの森(義務教育学校)草野拓也氏
- 多賀城市立第二中学校 横嶋幸成氏
- 岩沼市立岩沼北中学校 松岡めぐみ氏
- 芝浦工業大学附属中学校 横山浩司氏、志村創氏
- 宮城県宮城野高等学校 伊藤雄治氏、三品祐輔氏
- 聖和学園高等学校 大槻侑杜氏
- 岡山県立瀬戸高等学校 笹埜圭亮氏、絹田昌代氏
その中で筆者は「中学校」の事例に注目した。これは、筆者自身が全国各地の事例を収集・取材する中で、受験や教科指導内容の高度化などの理由があるのか、GIGAスクール構想で配備された端末の活用度が小学校よりも中学校になると下がる傾向が見られるためだ。前段のシンポジウムでも話題の中心が小学校と高等学校であったため、このセッションでは中学校の最新動向をぜひとも見たいと考えていた。
特にその中で興味を引いたのが、多賀城市立第二中学校の実践事例だ。説明を担当した研究主任の横嶋氏は、中学校になると特に差がつきやすい教科である「数学」で、GIGA端末とクラウドを駆使しつつ「単元内自由進度学習」を実践し、実際に手応えを得たという報告を行ってくれた。
単元内自由進度学習とは「教師が計画する学習内容のフレーム内で、子ども一人ひとりが課題を自己決定し、計画を立てて自分の学習速度で進め、その過程で友だちと相互に作用しながら学びを深めていくことを目指す学び」(※横嶋氏提供の資料より引用)だ。前回の記事でレポートしたシンポジウムでも、児童生徒自身が自分に合った目標ラインを設定し、自身の意思と適切な環境の中で学びに自律的に取り組んでいくことの重要性が指摘されていた。
横嶋氏の取り組みでは、特定の教科内の単元のまとまりの中で、「1人で/友だちと/先生」と取り組むのか、「アナログ/デジタル」で学ぶのか、それらを一人ひとりが判断し組み合わせることにより、自分のペースで学んでいく。
横嶋氏は、数学の授業内で新たな「単元」に入った際に以下3点を必ず行うという。
- 進度表の配布:教科書やワーク(紙)の該当ページ、解説動画の番号、内容目標などが一覧になったもの
- 態度目標の確認:「インプットよりもアウトプットを多くしよう」といった、単元内での心構えの共有
- 内容目標の確認:単元内を細かく分けた「節」ごとに身につけてほしい知識・技能や思考力・判断力・表現力の共有
この単元では何を学び、どのように内容が進んでいくのかを示すことで、「自分はこの中でどこまで進むことを目標にするのか」が見通しやすくなる。
なお、進度表には「解説動画の番号」という項目も記載されている。こちらは、横嶋氏が一斉授業をしていた際に参考にしていた教育系YouTuberの動画に対応する番号が振られており、生徒は動画を視聴して学ぶことができる。もちろん、学習で動画を使うか使わないかは生徒に委ねられている。
このように、かなり生徒の「意思」に寄り添った進め方になっているため、必然的に「どこまで学習が進むか」は、一人ひとりの生徒によって異なる。私たち大人がイメージするような、教員が壇上で板書や説明をしているのを生徒全員が前を向いて聞き、ノートに書き写す「一斉授業」とは、教室の雰囲気も大きく変わっている。一見、教員は前方に座っているごく数名の生徒の指導しかしておらず、ほかの生徒は1人あるいはグループで自習をしているような光景となるため、人によっては「先生が特定の生徒だけひいきしている」「不公平」「授業の体をなしていない」と思うかもしれない。
実際に、保護者にこうした学び方の意義がうまく伝わっていないケースもあることから、「自由進度学習」という言葉自体を丁寧に説明するとともに、一定の効果が出ていることも伝えたという。なお、横嶋氏の授業では単元内の節ごとに「チェックプリント」に取り組んでもらい、解いたら教員のチェックを受け、クリアすると次の節に進める方式が採用されている。そのため、教員と学ぶ方式をとっていない生徒の理解状況もこのタイミングできちんと把握できるそうだ。