AI時代に教育はどう変わる? 安西氏が示す3つの大きな変化点
安西氏自身の専門はAIと認知科学であり、約50年にわたり研究に携わってきた。研究主題は、アメリカの教育哲学者ジョン・デューイが提唱した「Learning by Doing(経験を通じて学ぶ)」、すなわち、自ら経験しながら学んでいくプロセスである。この概念は、AI時代に必要とされる知識やスキルの習得と活用、そして「自律的な学びのエンジン」を育むという考え方と深くつながっている。

安西氏は「心とは情報処理を行うシステム」と定義し、「生命体である人間は、コンピューターとは異なり、自律的に自分を変えていく特性を持つ」と語る。この生命体としての情報処理こそが、学びの基本的なポイントであると強調した。
AIが社会に深く浸透し、個別最適な学びが進んでいく時代において、教育のあり方も変化している。学びにおける大きな変化は、主に3点ある。
第一に、知識の変化である。「覚える知識」から「活用する知識」へと変わっていく。AIが知識の集約や分析を容易に行ってくれるため、人間には批判的思考力がより強く求められるという。
第二に、「スキル」の習得である。これからは「何をどうやってやるのか」といった学びが重要となる。
第三に、評価の変化である。AIによる個別最適化が進む中で、これまでのペーパーテスト中心の評価から、個人の心の中のプロセス、特に感情やコミュニケーションスキルといった「非認知スキル」の評価が大きな課題となっていくという。
AI時代の教育課題と、問われる「学びの哲学」
AI時代の学びを考えるうえで、安西氏は2つの軸を提示した。ひとつは「個別と全体」の横軸で、個人やクラス単位の学びと、学校全体、地域、国家、さらには人間全体の変革という視点。もうひとつは「短期と長期」の縦軸として、短期的なAI利用のあり方と、長期的な教育の視点を示している。

短期的な課題としては「生成AIの具体的な使い方」、長期的には「学びの内容や方法」「AI利用に伴う問題への対処」などが挙げられる。安西氏は「今後、重要視される批判的思考のベースになる情動や、コミュニケーションスキルなどを含めた非認知スキルの評価をどうするかは非常に難しい問題である」と語る。
さらに「AIの進化によって、近代の教育制度が終焉に向かっている」と安西氏は指摘した。産業革命によって標準化された人材を大量に育成するために生まれた近代の学校制度は、AIによる個別の学びの可能性が広がることで、その枠組みが曖昧になりつつある。デジタル革命が進行し、AIが社会に深く入り込むこれからの時代、「学びの哲学」を改めて考えていくことが重要だという。