100年を超える歴史を持つ武蔵野大学の沿革
武蔵野大学は、東京都に本部を置く私立大学である。1924年に前身である「武蔵野女子学院」が創立され、大学創立当初は女子大学であったが、2004年に共学化。2024年には100周年を迎えた歴史ある大学である。キャンパスは武蔵野(西東京市)と有明(江東区)の2カ所にあり、本部は2012年に開設された有明キャンパスへ移転している。現在は13学部21学科を有する総合大学であるが、前進が女子大という歴史的な経緯から文系の学部・学科が多い。
同大学はデジタル教育に熱心に取り組んでおり、2019年に私立大学で最初にデータサイエンス学部を設置したことで有名である(国公立大学では、2017年に滋賀大学、2018年に横浜市立大学が同学部を設置)。また、文理融合を掲げる同大学では、2021年から全学共通の基礎課程「武蔵野INITIAL」の1年次の必修科目として「データサイエンス基礎」「人工知能基礎」、選択科目として「情報技法基礎」「プログラミング基礎」等の科目を開講。同時にこれら科目の発展形である「副専攻(AI活用エキスパートコース)」を開設して大学全体でデジタル教育を推進しており、成果を上げている。
本稿では、筆者が同大学の有明キャンパスを訪ねて、スマートインテリジェンスセンター(MUSIC)のセンター長である林浩一教授(以下、林教授)にAI副専攻についてさまざまな話をお聞きした。
武蔵野大学の「AI副専攻」とは
まず、武蔵野大学の「副専攻(AI活用エキスパートコース)」の概要をお聞きした。副専攻とは、学生が所属する学部・学科の主専攻に加えて興味ある分野を体系的に学べる制度であり、学部・学科の枠を超えて、特定のテーマを学ぶことができるカリキュラム群のことである。文部科学省も大学教育改革の一環として副専攻を推奨していることもあり、今では多くの大学で副専攻を開設している(2023年の文科省調査によると、すでに200校近い大学で副専攻を設置済み)。特に昨今は、データサイエンスやAIをテーマとした副専攻が増えており、同大学のAI副専攻もそのトレンドに乗ったものといえる。
同大学のAI副専攻の特長は、AIエンジニアを養成することではなく、AIツールやサービスを活用した企画、業務改善を行うことのできる人材の輩出にある。そのため、プログラミングやデータサイエンスのスキルに加えて、論理思考や業務課題の解決、ユーザー視点でのサービス設計に重点を置き、AI活用のプロジェクト推進力の習得を目指している。いわゆる「データ×文系」というパターンの副専攻である。
同大学のAI副専攻のカリキュラム体系は下図の通りである。本専攻では、AI活用力の習得を目的とした科目群が提供されており、全18科目のうち12単位を取得すると正式に修了証が発行される。また、その取得単位は卒業要件の124単位に組み入れられる。
1年次の科目はMDASH(数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度)のリテラシーレベルに準拠しており、前期の入門科目は、全学部・全学科の必修科目となっているが、それ以降はすべて選択科目である。初年度(2021年度)の入学生は全学で約300名が本専攻へ申し込みを行い、最終的な修了者は81名であった。
「カリキュラムの途中で離脱する学生もいますが、一定程度はプログラミング等が苦手な学生が必ずいるので、あまり気にしていません。意欲・能力の高い学生が履修を継続することになり、結果的に修了生のレベルの高さにつながっています」と林教授は語る。

