国からの「マイナンバーカード活用」の要請が変革の追い風に
──まず、「東北大アプリ」開発の背景について教えてください。
藤本氏(以下敬称略):きっかけは2020年12月に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」でした。マイナンバーカードの普及や行政手続きのオンライン化が重点課題として位置づけられ、国の各機関にはマイナンバーカードの普及・活用を推進することが求められました。その中で、国立大学に対しては、事務のデジタル化やマイナンバーカードの活用などの取り組みを中期目標・中期計画に反映することが明示され、大学としての対応方針を定める必要が生まれたのです。
これは、DXを進める立場にある私たちにとって、新しい挑戦を加速させる大きな契機になりました。大学は多様な関係者が関わるため、物事は丁寧に検討しながら進めていくことが多く、新しい仕組みの導入には時間を要することもあります。本学でも学生証は長らく磁気カードを活用していましたが、国の方針が示されたことで、スピーディーに変革を進める後押しとなりました。
吉田氏(以下敬称略):2021年に、マイナンバーカードの活用に関して本学と民間企業による実証実験を実施しました。他大学での活用の事例を調べたところ、マイナンバーカードに学生証の情報を紐づけて、図書館や学内のインフラ利用時の認証に使うケースが確認できました。そういった事例を参考に、本学ではマイナンバーカードを授業の出席やキャンパス内施設の入退室、証明書発行等に活用する実証実験を実施しました。
マイナンバーカードが非常にセキュアであること、活用の可能性があることは確認できましたが、関係者間での慎重な議論の結果、マイナンバーカードは学生証の代替にはならないという結論に至ったのです。
藤本:マイナンバーカードをそのまま学生証として利用することは現実的ではありません。学生証は大学名や所属を明示し、学生であることを一目で確認できる役割を担っていますが、マイナンバーカードにはこうした大学固有の情報を追加することができないためです。したがって、大学で将来的にマイナンバーカードを活用していくには、その機能を補完するスマートフォンアプリとの連携が不可欠になるだろうと考えていました。
そうした中、大学ICT推進協議会(AXIES)の2022年度年次大会で、SibaServiceさんに出会ったのです。SibaServiceは高等教育機関向けポータルアプリの提供や開発支援を行う企業で、他大学との取り組みを見て非常によいアプリを作られていると思いました。
本学でも、プロジェクトチームを立ち上げ、市場調査やアプリの仕様検討を経て、2024年3月に導入が決まりました。そして2025年4月、「東北大アプリ」を東北大学の学生・教職員約2万4400人に向けてリリースしました。

