株式会社ミエタ 代表 村松知明氏

開成高校(2004年)・東京大学工学部(2008年)卒。 在学中、卒業生と在校生が交流する大学公式プログラム「知の創造的摩擦プロジェクト」の創設に携わり運営代表者として2000名規模に育てる。新卒で三菱商事株式会社に入社し、中国やフィリピンでの不動産事業等に8年間従事した後、2016年に株式会社ミエタを創業。
探究学習の変化──体験学習から本格的な探究へ
──ここ10年間で、中学や高校の探究学習にはどのような変化がありましたか?
5年前や10年前を振り返ると、当時の探究学習は体験学習をはじめとして、単発のワークショップや調べ学習にとどまるものが中心でした。教員が主導する形で進められることも多く、生徒の主体性や実社会とのつながりを意識した活動はまだ限定的でした。
ただ、探究学習への意識はこの10年で徐々に、しかし確実に変化してきました。当時は、まだ「終身雇用」「大企業中心」といったレガシーが強く残っていましたが、コロナ禍を経てAIやDXが急速に発展し、「VUCA[※]」と言われる将来の予測が困難な時代になりました。この変化に伴い、企業に勤める保護者の方々も自身の仕事や社会全体におけるイノベーションの必要性を肌で感じることで、ご家庭が学校教育に求める内容も変わりました。そのような社会変化のなかで、大学入試改革、学習指導要領の改訂といった業界における変化も後押しし、予測困難な時代に不可欠な学びとして、探究学習が位置づけられるようになってきたと感じています。
[※]Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉の頭文字をとった言葉
──そうした変化を経て、現在の探究学習にはどのような特徴が見られるようになってきましたか?
最近では、学校における探究学習の位置づけも変化してきており、生徒がより充実した学びを経験できるような本格的な探究型学習が増えてきています。単に知識を調べるだけでなく、実社会の課題に取り組み、実際に自治体へ提言を行ったり、企業と連携して商品のパッケージをデザインしたり、より深い思考を伴う問いの設定が行われるようになってきました。生徒一人ひとりが自分で考え、試行錯誤しながら学ぶ場面が増えたことは、非常に大きな変化だと感じています。
探究学習における学校・地域・企業の協働の広がり
──学校外との連携が広がっているという点について、具体的などんな動きがありますか?
探究学習は以前のように学内だけで閉じるものではなく、地域や企業と連携した活動も一般的になってきています。地域団体や企業とタイアップしたプロジェクトに生徒が取り組むケースも増え、学校の中だけでは体験できなかった学びの機会が広がっています。
コロナ禍を経てタブレットやデジタル教材の導入が進み、また教員の働き方改革も進められるなか、学校の投資や環境整備も進みました。その結果、学習アプリのサブスク購入やALTの活用、部活動や地域との連携など、学校外のサポートを取り入れる動きも増えています。こうした変化により、学校側も外部組織との協働や教育プログラムを取り入れながら探究学習をつくり上げる機会が格段に増えてきたと感じます。
──学校外と協働する流れは今後さらに加速していきそうですが、教育現場にはどのような影響があるでしょうか。
個人的な考えとしてですが、やはり先生方の業務量の大きさを考えると、学校単独で探究学習のすべてを担うのは難しい状況が続くと思います。例えば保護者対応の複雑化や、特別支援学級に在籍する児童生徒数の増加など、日常的な業務の負荷は年を追うごとに大きくなっており、通常教科に加えて探究学習の機会をつくることは、さらに先生方の負担を増やす存在になっています。
外部の専門業者が支援に入ることで、先生方は授業運営や教科指導に集中できるようになります。中長期的な探究学習やコーディネートのサポートなど、手間のかかる部分を外部が担うことで、教育現場全体がより充実したものになっていくのではないでしょうか。
さらに、日本政府として子育て支援の拡充や私立学校の無償化などの動きがありますが、私立校だけではなく、公立校における予算や支援の充実も進むでしょう。そうした変化と相まって、学校と地域・企業の協働は今後さらに広がり、一体的に探究活動を進めていく方向になるのではないかと思います。

