学校の外に出て「学ぶ目的意識」をつかんでほしい
──新渡戸文化中学校・高等学校のスタディツアーはいつから、どのような形で実施しているのでしょうか?
スタディツアーには、生徒に学校の外へ出て現地を訪れ、社会と未来に触れることで「学ぶ目的意識」をつかんでもらいたいという想いが込められています。
私が新渡戸文化学園に着任した2019年度から新たな学校づくりが始まり、その一環として、スタディツアーを始めました。2019年度は希望制で数名の生徒が参加したところからのスタートでしたが、コロナ禍を経て2021年度から、現在のように複数の目的地から生徒が行きたい場所を選ぶ形で実施しています。行き先の選択肢は徐々に増え、2024年度は高校の探究進学コースの場合、約20エリアになりました。
「日本が未来にわたって抱える課題」に生徒が触れることを重視しているため、行き先には観光地ではなく、「人口減少による過疎の課題を抱え、それに向き合って尽力している大人がいる地域」を選んでいます。また、宿泊場所もホテルではなく自炊するなど、「お客さん」として参加できるような旅行ではありません。
加えて、通常の修学旅行は3年間に一度行くだけですが、本学のスタディツアーは3年間で何度も行くことができます。高校の探究進学コースの場合は4回以上行くことも可能で、すべて違う場所に行く生徒もいれば、何度も同じ場所を選ぶ生徒もいます。1回あたりの費用を抑えて、既存の修学旅行に充てていた費用で複数回行けるシステムにすれば、自分が学ぶ目的や、やってみたいことに出会える確率を高めていけるのではないかと考え、この仕組みにしました。
──非常に珍しい取り組みだと思うのですが、どのような想いで始められたのですか?
私が本校に着任する以前、都立高校の教員をしていた際に感じた疑問が根幹にあります。あるとき、高校入学時点では学びに対して必ずしも自信や意欲があると言える生徒ばかりではない高校に勤務していたのですが、授業を工夫することで生徒が勉強の楽しさを知り、学習にも意欲的になっていく姿を目の当たりにしました。そして将来の夢を持ち、大学受験で望んだ結果を出す生徒が現れたんです。一方、いわゆる進学校に勤務していた際は、知的好奇心が極めて高い生徒が非常に意欲的に勉強しているものの、みんなどこか学びが苦しそうな様子が気になっていました。
「何か大きな社会システムや教育システムが、生徒の可能性をつぶしているのではないか」という疑問を感じていたときに、JICA教師海外研修に参加してブータンの学校を訪れたことがあったんです。そこでは現地の子どもたちが喜々として意欲的に学んでおり、「なぜ一生懸命勉強するの?」と聞いてみたところ、全員が「国の発展のために勉強している」と答えたことに衝撃を受けました。
同じ質問を日本の高校生に聞いたら「いい大学に進学するため」や「いい就職をするため」だとか、「学校に来ている意味がわからない」と答えるのではないかと危機感を持ち、「地域のため」や「未来のため」と言えるような「学ぶ目的意識」を育みたいと考え、スタディツアーのアイデアが生まれました。そして、学校外の活動としてNPOなどと協力し、広く参加者を募集して実施するようになったんです。
その後、本校に来てからは従来の修学旅行のあり方を変え、スタディツアーとして学校教育活動の中に大きく位置付け、発展させてきました。