名古屋市がゼロトラストで実現する「次世代校務DX」
続いて、名古屋市教育委員会の天野望氏が、他の政令指定都市に先駆けて実施した次世代校務DXの取り組みについて説明した。
従来、同市の教育ネットワーク環境はインターネットを介して接続可能な学習系のシステムと、重要性の高い校務系のネットワークを分離してセキュリティ対策を行っていた。一方、文部科学省は2023年3月に示した「GIGAスクール構想の下での校務DXについて」において、教育ネットワーク環境をネットワーク分離からアクセス制御による対策へと切り替えるように促している。
そこで名古屋市も、2025年8月よりアクセス制御による教育ネットワーク環境へと移行し、ゼロトラストネットワークを採用したフルクラウド化を実現。校務系システムはデータセンターを廃止し、AWSなどを用いたクラウド環境に移行した。
移行の目的は「教育データ利活用の推進」「セキュリティ・レジリエンスの向上」「教員の働き方改革」の3点だ。特に、クラウド化した校務支援システムと学習系システムとのAPI連携や、教育データを可視化するダッシュボード機能により、教員が経験や勘だけに頼るのではなく、データに基づいた指導やサポートを行う環境を整備することに注力したという。加えて、フルクラウド化は、大規模災害や緊急事態への耐久力(レジリエンス)も向上させる。
AWSを採用した理由としては、同市がすでに整備しているガバメントクラウドがAWSで構築されていたことが挙げられた。将来的には福祉部門などとの連携も見据え、拡張性の高さを重視したという。
導入後の成果としては、まだ稼働から日が浅いながらも、働き方改革に関連する教員の意見が紹介された。特に興味深いのは、場所を選ばず業務ができるようになったため、職員室の中でも端末を持ち運んでの校務が可能となり、「教員間のコミュニケーションが今まで以上に活発になった」という意見である。
今後の展望として天野氏は、出欠や保健室の利用状況、教員による所見といった校務系データと、学習アプリの利用状況や正答率、心の健康観察などの学習系データを統合し、ダッシュボードで一元的に可視化することで、子どもの異変を早期に察知し、最適なサポートを行うことを紹介。そこから得られたデータは、個人情報に十分配慮しつつ、学校と教育委員会が相互に活用し、エビデンスに基づく教育政策(EBPM)を実施していくとした。
最後に天野氏は「他の政令指定都市に先駆けて導入したこれらの環境を活用し、全国ナンバーワンの教育環境を目指して、これからも挑戦を続けていきたい」と意気込みを語った。
