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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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グロプロ~世界におけるプログラミング教育と、その可能性~

イングランドのコンピューティング必修化に学ぶ――実施から3年で見えた課題

グロプロ~世界におけるプログラミング教育と、その可能性~ 第2回


 イングランドを中心にグローバルなコンピュータサイエンス教育(CS教育)事情をひもとき、プログラミング教育の可能性を考察していく本連載。前回の記事では、2014年からのイングランドにおける教科コンピューティング必修化の概要について触れました。それから4年目の今、取り組みについてどういった評価が行われ、どういった問題点が明らかになっているのでしょうか。日本におけるプログラミング教育必修化の内容は、イングランドのものとは大きく異なるとはいえ、その歴史と経験から学べることは大いにあると考えています。

必修化の背景と歴史

 さて、なぜイングランドは教科コンピューティングを必修化するに至ったのでしょうか。ここでは、Brownらの研究[1]をもとに、その歴史をひもときたいと思います。

 実は、イングランドにおいては1980年代から「コンピュータスタディーズ」という名前の授業が存在しており、プログラミングを含めた、幅広い意味でのコンピュータについて、児童生徒が学ぶチャンスがありました。教育向けにデザインされたマイクロコンピュータ「BBC Micro」(BBC Micro:bitと名前が似ていますが、別のデバイスです)も、その中で大きな役割を果たしていました。当時のコンピュータは、一般のユーザーが使えるアプリケーションプログラムは非常に限られている一方で、BASICのインタプリタが備え付けられていたことから、コンピュータを使いこなすためにプログラミングを学ぶことは、非常に自然な流れでした。

BBC Micro
BBC Micro

 しかし、IBM PCをはじめとした家庭用コンピュータが登場し、そのプラットフォームで動作する文書作成や表計算などの便利なアプリケーションプログラムも生まれたことで、その流れに変化がおきます。政府は、アプリケーションの利用を含めたデジタルリテラシーの教育が不可欠と考え、徐々にコンピュータスタディーズの内容をそれらに寄せ、最終的にはアプリケーションの操作スキルに焦点をおいた、新しい教科「ICT (Information and Communication Technology)」を設置しました。プログラミングや、コンピュータの動作に関する内容も一部コンピュータスタディーズより引き継がれてはいたものの、現実的には多くの学校において、その内容はカリキュラムから消えてしまったと言われています。

 2008年、そんな流れにストップをかけるべく、CAS(Computing At School)が立ち上げられます。そして2011年頃よりCS教育を再度必修化する機運が徐々に高まってきた中で、GoogleのEric Schmidtが行った、エジンバラでの以下のスピーチが、決定打となりました。

I was flabbergasted to learn that today computer science isn't even taught as standard in UK schools… Your IT curriculum focuses on teaching how to use software, but gives no insight into how it's made.

【意訳】私は今日イギリスの学校で「コンピュータサイエンス」が教えられていないことを知って驚きました……ITのカリキュラムは、ソフトウェアをどうやって操作するかにフォーカスしていて、どうやって作られるのかについては教えてくれないのです。

 また、2012年1月にはRoyal Society(非常に長い歴史を持つ科学学会)による「Shutdown or restart? The way forward for computing in UK schools」というレポートが発表され、CS教育復活に向けた、さまざまな提案がなされました。ここからの政府の動きは非常に速く、このレポートが発表された週には、既存の教科ICTを廃止すること、その替わりとしてコンピュータサイエンスを再度必修化することが明確に発表されました。

 とはいえ、コンピュータサイエンスを中心とした教科コンピューティングを必修にすることは、全く新しい知識とスキルを持った数多くの指導者と、新しいカリキュラムに対応した教材、指導の手引、それらを用いた教員研修が不可欠であることを意味します。ここで、先に登場したCASが幅広い範囲で、非常に大きな役割を担ってきました。

 例えばNoE(Network of Excellence)と呼ばれる草の根的な教員研修ネットワークを作り、Master Teacherと呼ばれる、教員に教える教員を育成することで、教員研修をスケールさせています。また、Barefoot Computingというプロジェクトでは、Primary schoolにおけるコンピューティング授業向けのトレーニング教材の提供と、それを用いた教員研修を行っています。

 またCAS Researchといって、コンピュータサイエンス教育の研究者と現場の教員をつなげる活動なども実施しています。筆者は、もともとこのCASで代表を務めるMicrosoft Research CambridgeのDr. Simonから、CASの中心的存在であるDr. SueがKing's College Londonに所属していることを教えてもらい、大学院を選択しました。実際にCAS Researchにも参加しているので、CASの活動や役割については今後の連載で詳しくご紹介できればと思っています。

参考文献

[1] Brown, N.C., Sentance, S., Crick, T. and Humphreys, S., 2014. Restart: The resurgence of computer science in UK schools. ACM Transactions on Computing Education (TOCE), 14(2), p.9.

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コンピューティングの現状と問題点

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この記事の著者

鵜飼 佑(ウカイ ユウ)

慶應義塾大学環境情報学部卒業後、東京大学大学院修士課程修了。水中ロボットを用いた水泳教育支援システムの研究開発を行い、2011年には情報処理推進機構より未踏のスーパークリエータに認定される。その後マイクロソフトのオフィスやマインクラフトエデュケーション開発チームにてプログラムマネージャを務め、Off...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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