世界を席巻する企業を日本から生み出すために
日本を代表するインターネット企業として知られるディー・エヌ・エー(DeNA)。ゲームや野球などの印象が強いが、EコマースやSNS、モビリティ、そして街づくりなどにも取り組んでいる。さらにCSRとしてインターネットマナーの普及活動も行っており、子どもたちのネット活用に関する啓発活動には18万人が参加している。加えて、2014年からプログラミング教育にも取り組んできた。
2019年はDeNAの設立20周年にもあたり、「De20(ディー トゥエンティ)プロジェクト」としてさらに加速させていきたいこと、挑戦したいことを整理しているところだという。南場氏は「20年を生き抜き、日本を代表するネット企業として成長してきたことを誇りに思うとともに、できていなかったことも多く、残念に思うことも少なくない」と振り返り、その理由として、事業活動が日本にとどまり、世界を席巻するような活動ができていないことをあげた。
「『DeNAがなくては生活できていない』と思っていただけるような企業を目指し、『メガトン級の喜び(Delight)』を世界に届けたいと粉骨砕身がんばってきたが、到達することはできなかった。それができているのは、GAFAを中心とするシリコンバレーから生まれた企業ばかり。かつて昭和の時代に、日本からはソニーやホンダなど世界的な企業が生まれたが、平成にはそれがかなわなかった。平成に起業し20年間がんばり続けてきた企業として、とても残念に思う」
南場氏がいうところの『メガトン級の喜び』を事業規模で一定推し量れるとして、近年の時価総額では、米国では設立30~50年くらいのMicrosoftやApple、Amazonなどが1兆ドルを超えていることを示した。経済成長が目覚ましい中国ではアリババを筆頭に設立20~30年の若い企業が業績を伸ばし、欧州では100年以上の老舗企業がいまも安定した業績を誇る。一方、日本では設立38年目のソフトバンク以外は、トヨタやNTT、NTTドコモなど歴史ある安定企業が上位を占めている。新しい企業の躍進は見られず、世界と比較した事業規模も下降気味だ。
「この状況は、経済界に身を置くものとしては非常に気になるところだが、それ以上に原因を考えるとさまざまな問題が見えてくる」と南場氏は述べ、その大きな原因のひとつとして「教育の問題」をあげた。
人材に求められる能力の変化と教育改革の必要性
南場氏は昭和から平成にかけて、大きく世界のルールが変わったことを指摘し、それに伴う教育の変化について、次のように語った。
「かつて、戦後に日本が加工貿易立国としてヒーローとなれた時代、教育はそれに最適なものだった。品質の高い均一な商品を大量に生産するために『1つの答えを早く正確に見いだす力』が重視された。しかし、平成はゲームルールが根本的に変わってきてしまった。間違えないことよりも創造性が重視され、改革し新しいものを生み出す力が求められている」
そして令和の時代となり、さらにその傾向が強くなっているという。新たな時代に必要な能力として南場氏は「IT・AI・IoT技術を自在に使いこなせること」「新しい価値(Value)を創造できること」の2つをあげ、さらに新しい価値を創造するために必要な資質として「Creativity(創造性)」「Passion(情熱)」「Collaboration(協力)」の3つをあげた。
それでは、どうやってこの能力を引き出し、育むのか。DeNAでは子どもたちが楽しみながら能力を育む方法として「プログラミング教育」に着目し、2014年から取り組みを開始している。これまで佐賀県武雄市や横浜市、渋谷区などの公立校で授業や体験イベントを行い、約5800人が参加した。
そこでのゴールは3つ。まず「アプリやゲームは自分で作れるものだと自然に考えられるようになること」2つ目に「プログラミングを知ることで、より豊かな創造性を働かせることができるようになること」そして3つ目は「それを楽しいと感じて、もっと学びたいと思ってもらうこと」だ。
授業にはDeNAが開発した「プログラミングゼミ」が使用された。開発には小学生の子どもを持つ社員が担当し、「自分の子どもに体験させたい教育」を反映させているという。その結果「自分の書いた絵が動き出す」といった子どもたちの意欲を高めるインターフェイスとなり、小学1年生でもできる基礎編から、プロが作るような創作まで楽しみながら学べるものとなった。実際に2014年から公教育で導入されており、フィードバックを受けて開発されたため、学校現場での使い勝手が良く、デバイスを問わずにオフラインで使用できるのも特徴だ。