「安心・安全なネット社会」の実現に向けて必要な制度・ルールとは
続いてのパネルディスカッションでは、国際大学GLOCOMの山口真一氏がモデレーターを務め、安心・安全なネット社会の実現に向けた制度、ルール、多様な主体の連携について議論した。
基調講演にも登壇した総務省の吉田弘毅氏は「法律がSNSや動画共有サイトの普及に追いついていない」現状を課題として挙げた。情報への自由なアクセスと発信を尊重しつつ、政府だけでなく多様な関係者が協力して、それぞれできることから取り組む、社会総がかりでの連携が重要であると強調し、今後の政策立案におけるフィードバックが重要であるとした。
誹謗中傷やリベンジポルノなどに対する「削除依頼」をサポートする、セーファーインターネット協会の吉田奨氏は、児童ポルノはほぼ100%削除を実現していることを報告した。「削除対応だけでなく、心のケアなどを含む、官民連携による複合的な対応が今後の課題」とし、これからのAI時代においては、AIが信頼できる相談窓口を適切に提示できるよう、検索エンジンやAIプラットフォームとの連携が重要になると述べた。

『朝日小学生新聞』の編集長を務める富貴氏は、読者である子どもたちに「情報を読み解く力」や「嘘を読まされない力」「正しく自分の考えを伝える力」を育むことを使命としていると語った。長期的な視点では「社会の仕組みや常識を教えること」、短期的な視点では「闇バイトなどの危険な情報を伝えること」の両輪が重要だとした。

現役保育士であるてぃ先生は、保護者からの悩みの多くが「子どもをスマホや動画に任せて、一人きりにさせている」ことに起因している点を指摘した。「インターネットを『時間稼ぎの道具』として利用するのではなく、子どもと積極的に関わることこそが本質」と、会場の参加者に向けて強く訴えた。

弁護士の上沼紫野氏は、2008年に制定された青少年インターネット環境整備法が、当時の基準では「賢く使わせる」ための先進的な法律であったことを評価しつつも、技術の進化に法律が追いついていない現状を伝えた。近年は子ども自身が加害者となるケースが増加しているとし、「現在のネット社会では一生残る問題となるため、子どもたちを保護する新たな仕組みが必要」と訴えた。

山口氏は「インターネット上の問題の根底には人間の行動があり、他者を尊重するという当たり前の道徳心の実践が重要である」とし、「保護者も子どもとともに学び、自身のデジタルリテラシーをアップデートしていくことが必要」とまとめた。
シンポジウムが提言する実践的な取り組みと未来への展望
シンポジウムの最後に、国際大学GLOCOMの所長である松山良一氏が閉会のあいさつを行い、シンポジウムの議論を総括した。松山氏は「データに基づく実証研究と、本シンポジウムで交わされた多様な立場の関係者による連携を通じて、実践的な取り組みが進むことを期待する」とし、「これらの成果が教育現場や企業活動に生かされ、子どもたちが安心してインターネットを活用できる社会づくりにつながることを願う」と話して、シンポジウムを締めくくった。

本シンポジウムでは、子どもたちのインターネット利用に関する課題が、社会や家庭だけでなく、教育や人間の倫理といった多岐にわたる複雑な問題であることを浮き彫りにした。
今後、子どもと保護者が共に学び、さらに社会全体が連携して、デジタル時代の新たな常識を築いていくことが、安心・安全でポジティブな社会を実現するための鍵となるだろう。