約4割の青少年がネットで何らかのトラブルに遭遇──調査から見えてきたもの
3つ目の基調講演では、国際大学GLOCOMの山口真一氏が「スマホ時代の青少年とネットの現実:エビデンスが示す課題と提言」と題して講演を行った。

山口氏は計量経済学を専門とし、SNS上のフェイク情報、誹謗中傷、ネット炎上といった課題について実証研究を行っている。今回の講演は、グーグル・ジャパンと取り組んでいる研究プロジェクト「Innovation Nippon 2025」の最新成果であり、インタビュー調査や有識者会議の結果に基づくと説明した。
まず、青少年と保護者合計4800人を対象としたアンケート調査から「保護者の認識よりも、実際には青少年がインターネットを広く利用している」という実態を紹介。山口氏は「約4割の青少年が何らかのトラブルに遭遇している」と指摘し、「約25%の青少年が、使いすぎによって学業や生活に支障が出たと認識している」と話した。
次いで多かった「比較・承認欲求からのストレス」について、山口氏は「加工された画像と自分を比較することで劣等感を抱き、摂食障害につながるなど、海外では深刻に認識され、法律で加工表示義務が課される国もある」ことを指摘した。
また、偽・誤情報については、青少年よりも保護者のほうが接触が多いことを挙げた。ただし、青少年は約半数がフェイク情報をそのまま拡散し、その拡散力が非常に高いという特徴も明らかになった。
家庭内ルールについては、親と子が話し合って決めたルールのほうが守られやすい傾向にあると指摘し、「親が一方的に押し付けたルールは守られにくい」ことを強調した。
啓発活動については、学校での講座やチラシ、ネット動画などによる啓発はニーズが高く、特に人気インフルエンサーを活用したショートムービーキャンペーンは1700万回以上視聴されるなど、高い効果を発揮していることを示した。
これらの調査研究結果をふまえて、山口氏は以下の5つの提言を行った。
- 家庭内ルールづくりの支援:国や自治体は、恐怖を煽らずに具体的な手順や事例を、学校やネット動画等で提供する。
- 啓発コンテンツの戦略的発信:青少年へ情報を届けるため、インフルエンサーの活用やポータルサイト整備、学校での講座を充実させる。
- メディア情報リテラシー教育の充実:学校でフェイク情報対策を強化し、ファクトチェックや具体的な被害例を教える。
- 年齢確認と子ども向けアプリの活用:事業者は、プライバシーに配慮した年齢確認を徹底し、子ども向けアプリやペアレンタルコントロール機能の開発を進める。
- 保護者の学びと対話:親子でルールを話し合って見直し、保護者自身もネットの知識を学び、トラブル時に相談できる家庭環境を整える。

深刻化するインターネット上での問題──企業が果たすべき責任とは
シンポジウムの後半では、2つのパネルディスカッションが行われた。最初に「子どもとインターネット:企業に求められる責任と未来へのビジョン」というテーマで、国際大学GLOCOMの渡辺智暁氏がモデレーターを務め、議論がなされた。
LINEヤフーの今子さゆり氏は、インターネットの発展とともに偽情報、誤情報、誹謗中傷、犯罪などの問題が深刻化している現状に対し、「信頼できる情報、信頼性の高い情報を積極的に出していくこと」が最も重要であると述べた。LINEヤフーでは、編集者が信頼性の高い情報を厳選して掲載する「Yahoo!ニュース トピックス」や、不適切なコメントを自動検出・注意喚起するAIモデルの導入など、情報空間の健全性維持に努めていると紹介した。

『コロコロコミック』副編集長を務める小林浩一氏は、48年間子どもの心に寄り添ってきた『コロコロコミック』の経験から、デジタル時代における子どものコンテンツ提供について語った。デジタルでは「味付けが強い」コンテンツが拡散しやすい傾向があるが、大人の目線での「安心・安全」が必ずしも子どもに響くわけではないと指摘した。重要なのは「子どもの行動や生活を見る」ことであり、大人の前提ではなく子どもの視点に立ち、エンターテインメントの中に安全のエッセンスを織り交ぜる工夫が必要だと述べた。

Adoraの冨田直人氏は、子どもの性的な自撮り被害やSNSいじめの増加を背景に、AIを活用した子ども見守りアプリ「コドマモ」を開発した経緯を説明した。同アプリは、子どものやり取りをAIが自動検知し、保護者に通知する機能を備える。ただし、保護者がすべての情報にアクセスできる「監視」型ではなく、子どものプライバシーと信頼関係を重視しているという。課題として、危機意識の低い保護者にリーチすることの難しさを挙げ、社会環境整備への強いコミットメントと、産官学民の多様な主体との連携の重要性を訴えた。

モデレーターを務めた、国際大学GLOCOMの渡辺智暁氏は、保護者のデジタルリテラシー不足などの課題にも言及し、「子どもを過保護に育てすぎると、社会でたくましく生きていく力が育たない可能性がある」と問題意識を提示した。
