1人1台端末とデジタル教材の活用に欠かせない「電子黒板」
「1人1台端末の活用」と聞いて、まず思いつくのはデジタル教科書を閲覧したり、ドリルで問題を解いたりといった使い方だろう。そして活用が進んでいくと、児童生徒が端末を用いてドリルで解いた問題の解き方を説明するシーンや、探究学習などで自分の考えをまとめ、発表するといったシーンが増えていく。一方で、児童生徒が自分の席から端末の画面の内容を口頭で説明するだけではクラス全員に伝えづらく、教員と1対1のやり取りになってしまいがちだ。
そこで出番となるのが、端末の画面を教室前方で表示できる「電子黒板」だ。電子黒板を1人1台端末と接続することで、児童生徒は自分の端末の画面を大きく見せながら教室全体に向けて説明できるため、クラス全員が参加する授業が実現しやすい。また、子ども自身も自分の言葉を多くの人に届けることを意識するので、プレゼンテーションスキルを伸ばすためにもこうしたスタイルの授業に電子黒板は欠かせないツールと言えるだろう。
もちろん、授業を運営する教員にとっても大きなメリットがある。電子教科書やデジタル教材・資料を簡単な操作で投影可能で、書き込みも容易にできるため、プリントの用意といった手間が減り、授業準備の負荷軽減につながる。また、授業中の板書やプリントの回収・配付にかかる時間も削減できるので、教員は今まで以上に児童生徒の表情を見ながら授業を進めることが可能となり、さらにグループワークや議論の時間も増やせるようになる。教員から児童生徒へ一方的に伝える授業から、教室全体を巻き込んだ双方向の授業への転換する際にも電子黒板の活用は非常に有効だ。
1人1台端末と電子黒板、デジタル教科書・教材の組み合わせによって、それぞれのICTツールのよさを互いに高めることができ、児童生徒も教員も、より授業に集中できるようになる。GIGAスクール構想以降の学校では、ぜひ全教室に整備したい設備と言えるだろう。
教育委員会は学校現場の声を踏まえて電子黒板の製品選定を
電子黒板を導入する際、どの製品を選ぶかは慎重に決める必要がある。まず考えるべき点は「1人1台端末と電子黒板を組み合わせて何を実現したいのか」ということだ。ここを押さえてこそ、必要な機能の洗い出しが可能となり、導入したい電子黒板のスペックを決めることができる。
もっとも避けなければいけないのは、予算等を気にするあまり使いづらい製品を導入してしまうことだ。使い勝手の悪さから日常的に活用されず、結局死蔵してしまうという問題は、これまでも多くのICT機器の導入時に見られてきた。
エプソン販売が実施した調査[※1]によると、教員が感じるICT教育実施時の懸念点としてもっとも多かったのが「ICT機器の管理やトラブル」、次に「ICT機器の性能不足や不調が授業の進行を妨げる」ことだった。せっかく導入した電子黒板を有効活用するためにも、十分なパフォーマンスを備えた製品を選ぶことは必須と言えるだろう。
とは言え、どの製品を選べばよいかわからないという問題があるのもまた事実だ。先述の調査によると、教育委員会の担当者が感じるICT機器選定時の課題として、もっとも多かったのは「予算が取れない」で、次点が「メーカー・製品が多く絞り込むのが難しい・面倒」だった。だからこそ、教育委員会の導入決定者は、まず実際に授業を行う教員の声を聞き、学校現場の要望に応じた製品を選ぶことが重要となる。また、現場の教員も「自分が実現したい授業」について、積極的に意見を述べることが大切だと言える。
同調査では教員に対して「大型提示装置選定時のこだわり」も質問している。「大きく映せればよい」がもっとも多かったが、ほぼ同じ割合で「壁や天井に設置できる」が並んだ。一方で「持ち運べる机上設置タイプ」を希望する教員も一定数いた。それぞれメリットがあり、壁・天井設置タイプは児童生徒が不用意に操作ボタンへ触れる心配がなく、床にケーブルがないため子どもが足を引っ掛ける事故が起きることはない。机上設置タイプのメリットはやはり持ち運べる点で、全教室への大型提示装置の整備が難しいケースにも柔軟に対応できる。
なお、大型提示装置の選定については「電子黒板機能付きのプロジェクター」タイプの人気がもっとも高かった。ただし、校種によってばらつきがあるため、いずれにせよ学校の環境や教員の意見を踏まえて選定することが重要であるのは間違いない。それぞれが好まれる理由としては、プロジェクタータイプが「画面が大きいから」、液晶モニタータイプの選定理由は「画面がくっきりしているから」といった声が多く上がった。
コスト面の課題については国の制度の活用によって負担を軽減することも可能だ。文部科学省は今年1月、「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」を2年間延長し、計画期間を2024年度までとすることを決定。ICT環境の整備を持続的・継続的に進めていく重要性が示された上で、引き続き単年度1805億円の地方財政措置が講じられることになった。1人1台端末の活用が進み、学校現場での課題も見えてきた中、実情に合った電子黒板を整備するには絶好のチャンスと言えよう。
[※1]エプソン販売株式会社が2021年12月~2022年1月に実施した、教員・教育委員会対象の調査より引用(有効回答数:教員 526件、教育委員会 309件)