「働く」が激変する時代、子どもたちに提供すべき教育とは?
2020年、小学校段階からのプログラミング必修化まで2年が切った中、現場では戸惑いとともにさまざまな課題が表出している。ICT CONNECT 21 会長の赤堀侃司氏は、「多くの課題があることは確かだが、その解決のための英知を持ち寄り、あえてポジティブに日本の教育が変わる好機と捉えていくことが大切」と語り、「今回のイベントは、国内外の最先端の事例を知る大変貴重な機会であり、ぜひともプログラミング教育はもちろん、それを含めた日本の教育の品質を高めることに役立ててほしい」とイベントの意義を説明した。
また来賓の、東京大学教授・慶応義塾大学教授 文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏も「今はすでに『誰がどうやるのか』といった具体的な議論のステージにある。今回のイベントはまさに『やるぞ!』という決起大会。日本人の欠点として、つい減点主義で『できていないこと』ばかりをフォーカスしがちだが、そもそもパーフェクトなプランなどはありえない。やってみて改善を繰り返す『デバッグ』の精神で、まずはやってみることから取り組んでほしい」と激励した。
基調講演に登壇したHadi Partovi氏は、コンピューターサイエンス教育に関する活動を行うNPOであるCode.orgの創業者の一人だ。Code.orgは、MicrosoftやApple、Googleなどもスポンサーになっている「Hour of Code(1週間に1時間はコンピューターサイエンスについて学ぶ時間を持とうという週間)」の推進活動を行う団体である。
Partovi氏はイランのテヘランで生まれ、プログラマーとして働きながらハーバード大学で修士号を取得後、起業やスタートアップの支援事業などで成功した、いわばアメリカンドリームの体現者だ。Partovi氏は「アメリカンドリームとは誰もがスキルを得て、仕事を頑張れば、幸せな生活ができるということだ。長らくそうした価値観が続いていたが、その『仕事を取り巻く環境』に劇的な変化が起きつつある」と語る。
米国では、RPAや自動運転といったテクノロジーによる労働の置き換えによって、トラック運転手やメーカーの工場勤務者、小売業従業員などなど300万人の失職が予測されている。また、弁理士や診療放射線技師といった高い専門性が求められる職業もその対象となり得るという。現在の仕事のうち、8年後には16%が、20年後には38%が消えてしまうという予測もあり、自分の仕事がなくなるのではないかと、多くの人が危機感を抱くのも無理はないだろう。
もちろんテクノロジーは負の側面だけでない。例えば、医師でも見抜けなかった病気がテクノロジーを用いた血液のDNA検査によって判明し、適切な治療を受けて命が助かることもあれば、スキャニング技術によって土壌の状態を判断して動くトラクターが、農業の効率を飛躍的に高めることもあるだろう。また自動運転がさらに普及すれば運転手は職を失うかもしれないが、交通事故は激減するはずだ。
しかし、こうした事象は今に始まったことではない。産業革命の時代には織り機や自動車の登場で職を失った人がいる一方、新たな産業が生み出された結果、多くの人々が大きな恩恵を受けることになった。このようにテクノロジーの進化は、業界や社会の形すら大きく変えてしまうインパクトをも秘めている。例えば、70年前は世界の人口の50%が農業に従事していたが、農業技術の発達によって現在の先進国ではわずか5%にとどまっている。
Partovi氏はこうした正と負の事例を紹介しながら、「自動化によって多くの職が失われることは間違いないが、今後どのような仕事が生まれてくるのかが重要な問題だ。私たちはそこにフォーカスし、未来を担う子どもたちの教育を考える必要がある」と強調した。
現在と15年前を比べてみると、デジタル化された仕事の比率が高まっており、さらに将来には90%以上がデジタル化されることになるという。しかし、それはICT企業が世界を席巻するという意味ではない。将来ソフトウェア企業の90%以上がシリコンバレー以外のものとなり、コンピューターに関する企業のうち2/3が、GoogleやAppleといったICT企業以外になると予測されている。製造業や農業、銀行もその枠に入ってくるということだ。