高校生が小学生のプログラミング学習をサポートする理由
西武学園文理小学校(以下、文理小学校)は2018年1月9日、株式会社ベネッセコーポレーションと株式会社ソニー・グローバルエデュケーションの2社と協力し、高校生がメンターになって小学生にプログラミングを教える「文理ロボット教室」を開催した。同校では2020年に必修化されるプログラミング教育の本格実施に向け、まずは最初のステップとして本教室を企画したという。
開催にあたり、協力を得たのが系列校である西武文理高等学校(以下、文理高等学校)の理数科だ。同科ではベネッセコーポレーションと日本マイクロソフトが研究・開発した4足歩行のロボット教材を授業に取り入れることや、ネイティブの教師が英語によるプログラミング教育を実施するなどSTEM教育に力を入れている。今回の教室は、その理数科で学ぶ高校1年生23名がメンターとして参加した。
文理小学校 主幹の永嶋稔久教諭はロボット教室について、「高校生が小学生を教えるスタイルにしたのは、理数科の方から『高校生のアウトプットを増やしたい』と要請があったからです。一方、小学校としても、高校生が先生として教えてくれることでプログラミングへの興味・関心が引き出しやすいのではないかと考えました」と経緯を語る。小中校一貫校であるメリットを活かし、プログラミングを通して小学生と高校生が互いに成長できる場を作りたいというのだ。
また、文理高等学校 理数科長の佐藤圭一教諭は、「理数科の生徒は授業でプログラミングを学んでいますが、学んだことをアウトプットする機会は意外に少ないのです。そのため、本来持っていないといけない知識が抜けてしまうこともあり、教える経験を通して何が不足しているのか、失敗しながら学んでほしい想いがあります。その経験が、今度はインプットの精度を高めていくことにつながると考えています」とねらいを語る。
ロボットプログラミング学習キット「KOOV」とは?
ワークショップの本題に入る前に、今回使われたロボットプログラミング学習キット「KOOV(クーブ)」を紹介しよう。
ソニー・グローバルエデュケーションが提供するKOOVは、カラフルなブロックと電子パーツを組み合わせ、自由な発想でロボット作りが楽しめる製品だ。その特徴は、ブロックの種類が少なくとも、多様な組み合わせができること。細かいパーツをそろえるのではなく、シンプルなブロックでアイデアを形にし、創造性を育むのがねらいだ。
プログラミングは、専用の「KOOVアプリ」をタブレットやPCにインストールして行う。ブロックを配置するビジュアルプログラミングを採用しており、作成したプログラムをロボットに転送することで動きが実行できる。同製品の対象年齢は8歳からだ。
KOOVアプリには、3つの学習メニューが用意されている。文理小学校のワークショップでも、この学習メニューを活用しながら進められた。
【1】ロボットレシピ
お手本となる作例の説明書を見ながらロボットを組み立てる。組み立てたロボットとあらかじめ用意されたプログラムをつなぐことで、動くロボットを制作する。
【2】学習コース
与えられたミッションをクリアしながら、自分で学習を進める。
【3】自由制作
自分だけのロボットを作って、アプリ内に設けられたSNSに公開することができる。
小学生の「作りたい」気持ちが刺激される試行錯誤のプロセス
ワークショップは、司会を務めた高校生の「プログラミングとは?」という言葉がけから始まった。高校生は「ロボットを動かすためにはプログラミング言語が必要です」と説明した。
その後は高校生がメンターとして各グループにつき、小学生にKOOVの説明を行った。センサーの役目やパーツを説明し、各テーブルに用意されたあらかじめKOOVで作られた信号機の仕組みを話すなど、高校生たちは伝わりやすい言葉を選びながら語りかけた。
続いて、司会の高校生が「信号機を触ってみよう」と呼びかけ、あらかじめ組み立てられた信号機のプログラムを触って遊んだ。小学生は「LEDを100回連続で光らせてもいい?」「待ち時間を変更したらどうなるの?」と言いながら、プログラムの数値や命令ブロックを変更し、動きの変化を楽しんだ。一般的に、プログラミングの授業やワークショップでは、最初の操作説明や取っ掛かりに時間を使ってしまうことが多々あるが、今回のように、できあがったプログラムを用意し、「まずは触ってみる」形から入るのも、ひとつの方法として面白い。
高校生たちもこの時間を利用して、小学生にいろいろな会話を投げかけながら打ち解け合った。プログラミングを楽しく学ぼうという雰囲気も、高校生によってうまく作られた。
アイスブレイクの後は、いよいよワークショップの本題に入る。テーマは「西武文理サファリパークを作ろう」だ。カラフルなKOOVのブロックを使って生き物を作り、プログラミングによって動きを与える。グループ制作と個人の制作、そのどちらで取り組んでも良く、最終的に作った生き物を全部並べて、車が周回できるサファリパークを作ろうというのだ。
とは言っても、ほとんどは組み立てロボットが初めての小学生たち。いきなり動く動物を作るのは、やはりハードルが高い。そこで多くのグループは、KOOVの学習メニューに用意された「ロボットレシピ」を用いて、まずは簡単な「オウム」のロボット制作に挑戦した。
KOOVにはタブレットやPCで閲覧できる3Dの説明書があるため、画面を動かしながらしっかりと構造を理解できる。ロボット制作が初めての小学生も自分で進めることが可能だ。
一方で、グループによっては、最初から「顎が上下に動く大きな恐竜を作ろうよ」と言って取り掛かる場面も見られた。小学生たちは高校生にどうすればいいかアドバイスを求め、高校生は「下顎を固定して、上顎が動くプログラムを作るのが良いと思うよ」と助言。このグループでは、口の部分を作る児童、胴体を作る児童、プログラムを考える児童など、自然に役割分担をしながら進めていた。
ある程度の時間が過ぎると、最初はオウムを作っていたグループも、次第にオウムからカメやサメなど、さまざまな生き物に作り変える姿が見られた。また、他のグループの制作過程を見て、「自分たちも恐竜を作ってみたい」と挑戦し始める児童も出てきた。制作中は、小学生たちが「足を動かすにはどうすればいい?」「音を鳴らすには?」と高校生に質問し、その都度プログラムを教えてもらっていた。組み立てたプログラムがうまく動作しないときは高校生がその原因を究明し、小学生と高校生がそれぞれ試行錯誤する場面が生まれていた。