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英語教材担当者インタビュー

4技能を伸ばす「これからの英語教育」とは? 上智大学名誉教授の吉田研作氏とイーオンの教材担当者に聞く


 2020年より全面実施された新学習指導要領によって、小学校における英語教育が本格化している。5~6年生では「英語」の教科が時間数を増やした上で新設され、3~4年生でも「外国語活動」として英語に親しむ機会が設けられた。これらの枠組みの中では「聞く」「話す(やりとり、発表)」「読む」「書く」の「4技能5領域」の力を育むことが、これまで以上に重視されるようになっている。さらに、コロナ禍によって普及したオンライン授業は、英語教育の領域でも注目されている。このような背景を踏まえ、日本英語検定協会会長を務める上智大学名誉教授の吉田研作氏と、子どもから社会人まで幅広く英会話教室を運営する、イーオンの教材開発担当者の堀田和江氏に、これからの英語教育に求められる学び方についてお話を伺った。

新学習指導要領によって変わる英語教育

 英語教育においては「4技能5領域」の重要性が増し、2020年度の小学校、2021年度の中学校と順次実施されている学習指導要領によって教え方自体が大きく変化しつつある。吉田氏は「これまでの文法や言語の形から入る教え方から、コミュニケーションを中心とした考え方に変わった」と解説する。

上智大学名誉教授/日本英語検定協会会長 吉田研作氏
上智大学名誉教授/日本英語検定協会会長 吉田研作氏

 ヨーロッパでは「CEFR(Common European Framework of Reference for Languages:セファール)」と呼ばれる言語共同参照枠があるが、日本では児童生徒の学習到達目標を「CAN-DO リスト」の形で設定をしている。

 「『CAN-DO リスト』は『初級なら、こういうことができる』『中級ならここまでできる』など、『○○することができる』を箇条書きで示した文章で、これにより学習到達目標を設定する。以前の英語教育では『まずbe動詞から』などの形から入っていったが、現在は意味や言語の機能などから入るという、カリキュラム自体の大きな変更があった」(吉田氏)

 もうひとつ大きく変わったのが、英語の授業の内容だ。新学習指導要領には「外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、 コミュニケーションを図る資質・能力を育成する」とあり、「英語」の授業をできる限り英語を用いて行うこと、さらに言語を使った活動の機会、つまりアクティビティの時間を児童生徒に持たせることが明示されている。

 それだけではない。「教員自身も英語をきちんと使えるように、英語力を向上させるといった方向性を、文部科学省ははっきりと打ち出している」と吉田氏。これらの方針に沿い、文部科学省では毎年、公立小・中・高等学校の「英語教育実施状況調査」を行っている。

 「2019年度の結果を見ると『できる限り英語で授業を行う』『パフォーマンステストを行う』『ICTを活用して海外の人と児童生徒がコミュニケーションする』といった状況の学校は、児童生徒の英語力が伸びたという結果を出している。エビデンスもそろってきており、ゆっくりではあるが日本の英語教育は確実に前進している」(吉田氏)

ICT機器を活用した英語教育も増加傾向で、それぞれ成果をあげている(出典:文部科学省 令和元年度「英語教育実施状況調査」概要)
ICT機器を活用した英語教育も増加傾向で、それぞれ成果をあげている(出典:文部科学省 令和元年度「英語教育実施状況調査」概要

英語教育におけるハイブリッド学習の強み

 また新学習指導要領では、ICTの活用により、指導の効率化や言語活動のさらなる充実を図ることも明示されている。ICT活用のひとつにオンライン授業があるが、ウィズコロナ・アフターコロナにおいても、ハイブリッド(ハイフレックス)といった形で継続されていくと思われる。こうした授業のあり方は、英語教育にとってどのような効果を与えるのだろうか。

 2020年度、自身も上智大学でオンライン授業を行ってきた吉田氏は「まず、どうしてもオンラインである必要はない」とした上で、オンライン教育のメリットをいくつか挙げた。

 1つ目は「一人ひとりが発話した際の音声が聞きとりやすく、リスニングに向いている」ことだ。「教室の授業ではほかの生徒の声に埋もれてしまうことも多いが、オンラインではミュート機能の活用により、一人ひとりの声をはっきりと聞きとることができる。そのため、個別指導も容易だ」という。

 また、教室ではマスクを着用していると、教員も児童生徒もお互いの口の形を見ることができない。自宅から参加するオンライン授業では、安心してマスクを外せるため、発音指導が行いやすいといったメリットもある。一方で「受講者が30人以上いる場合は個別対応に時間がかかる」ことが課題となる。

 2つ目が、児童生徒が緊張感を持って臨めるということだ。「大学の私の授業でも、音声はオフにしてもいいから、ビデオはできるだけオンにしてほしいと伝えていた。常に自分の状況が映し出されているため、集中しやすい」と吉田氏は話す。

 3つ目のメリットは、場所を選ばず参加できる点だ。「私自身、オンラインの良さを実感している。今日も東京にいながら、午前中は山形の人に向けてオンライン講演を行い、午後にはこの取材を受けている。移動がないため時間の無駄を省け、どこにいても参加できる。2021年3月に上智大学で最終講義を行った際は、全世界から1200人ほどが参加してくれた。これも対面授業では実現できない」と、吉田氏は自らの体験を振り返る。

 また、学校に著名人を呼んで講演を行う場合も準備や予算を大幅に軽減できるため、結果として児童生徒の世界を広げる機会を設けることができる。大学においても、コロナ禍により海外留学ができない学生が多く存在する。現地に行くことがベストではあるが、提携している大学の授業を日本にいながら受講できることは、オンラインの大きなメリットだ。

 4つ目が「一人ひとりが、自分の画面で個別に教材を見ることができる」という点だ。対面の一斉授業では、教室の前方で教材を掲示することが一般的だ。一方で、オンライン授業ではそれぞれの端末を使用し、受講者が自分のペースで教材を進めながら学びを深めることができる。

 5つ目のメリットは、教員による評価をスムーズに行える点だ。「授業の様子を録画しておけば、いつでも見たり聞いたりすることができる。振り返りながらやりとりを分析し、問題点を指摘することも可能だ」と吉田氏は話す。

ブレイクアウトルームの活用で児童生徒の活動を確認

 大学のオンライン授業において、吉田氏が活用していたのがブレイクアウトルームだ。

 「ブレイクアウトルームは、日本人同士で固まりやすい学生を、教員側で外国人学生と同じグループに分けることができる。また、大人数が参加する対面の授業では、学生それぞれの発音を聞くことや録音することは難しいが、各ルームの様子を個別に録画しておくことで、一人ひとりの発音を確認できる」という。

 その上で「対面授業でしかできないこともある」と吉田氏は話す。

 対面であれば、教室を見回りながら気になる学生の様子を確認することができる。しかしビデオで教室を映した場合、視点が教員ではなくカメラマンの視点になる。そのため「教室の全体像をつかむのにはオンラインが長けているが、言葉だけではない親密さやコミュニケーション、協働作業は対面に利がある」とした。

次のページ
子どもたちが「気づき、考える」AEON KIDSのレッスン

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この記事の著者

相川 いずみ(アイカワ イズミ)

 教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、教育におけるデジタル活用を中心に、全国の学校を取材・執筆を行っている。渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足しプログラミング体験教室などを開催したほか、シニア向けサポートを行う渋谷区デジタル活用支援員としても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

EdTechZine編集長。好きな言葉は「愚公移山」。

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