子どもの心に火をつける「自由進度学習」
蓑手氏が勤めていた小金井市立前原小学校は、公立小学校ながらICT活用については日本でも屈指の取り組みを行っていることで知られている。同校には2017年から1人1台端末の環境があり、3カ月にわたった休校期間中もオンラインを駆使して、子どもたちと学び続けてきた。「この出来事は自分にとっても大きな学びがあった」と蓑手氏はふり返る。
最初のテーマ「子どもの心に火をつける!」では、子どもの学びの火を消さないために必要な、自己調整力の伸ばし方について語られた。
まず、蓑手氏は「『学びの火』は、あとから与えるものではなく、もともと子どもの中にある」とし、現在の学校に存在する「他者との比較」によって学びの火が消えてしまうことを指摘した。
蓑手氏が担任を務めていた6年生では、コロナ禍以前より学年全体で「自由進度学習」を実践してきた。自由進度学習とは、子どもたち一人ひとりが自分で目標を決め、それぞれのペースで自由に学んでいくというものだ。子どもたちが勉強嫌いになってしまうことを何とか避けるため、蓑手氏が試行錯誤をした結果、行きついた答えだという。「現在の学校は下りエスカレーターを逆走しているようなもの。立ち止まったり休んだりすると置いていかれるので、必死に食らいついていかなければならない。一方で、早く進められる子どもが上の学年の勉強をしていたら注意されてしまう」と、蓑手氏は危機感を抱く。
自由進度学習のメリットは、いつでも自由に自分のタイミングで学ぶことが可能で、わからなくなったら何度でもふり返ることができる点だ。蓑手氏は「これこそ学びの本来あるべき形」と語る。
実践時のポイントは「めあて(目標)を、ギリギリ達成できないくらいに設定する」こと。めあてを達成すること自体が目標ではなく、全力を出すこと、成長することが目的であるため「子ども自身が全力を出せる、めあてを立てることが重要」ということだ。
蓑手氏が実際に行った、算数の自由進度学習の授業は次のような流れだ。最初の10分間で教科書を使った一斉授業の「ミニレッスン」を行い、そのあとは個別にめあてを立て、自主学習や友だちとの学び合いを行う。そして最後の10分間で、個別に自分で採点して、ふり返りを書く時間にあてる。
「自由進度学習では、最後のふり返りの時間がもっとも大事。全問正解だったら『残念だったね』と声をかけている。簡単過ぎる問題を選んでいては成長しない。できるかどうかわからないギリギリのストレッチゾーンにいるときにこそ、力は伸びるもの」と蓑手氏は解説する。
このように、誰かと比べるのではなくお互いの成長を喜び合い、成長そのものを幸せに感じられることが、自由進度学習の特徴と言える。そして、アメリカの教育心理学者であるウィリアム・ウォードの言葉を紹介し「小学校段階で大事なことは、何を身につけさせるかではなく、学び方などのプロセスそのもの」と語った。
さらに「ITの爆発的な広がりは革命とも言え、現在は環境さえあれば膨大な量の情報が、ほぼ無料で手に入る。学びを愛して自分をアップデートし、未来の自分に期待できること、成長の仕方を知っていることが必要」と述べ、自由進度学習の意義についてまとめた。