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フィンランドの小中学校の先生たちが注力している、21世紀に必要な力「Transversal Competences」とは?

教育ICT先進国フィンランドの教育動向~現場からの声 第4回

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2020/11/09 07:00

 本連載では、フィンランドの中部、オウル大学大学院でフィンランドのアントレプレナーシップ教育を研究する筆者が、教育ICT先進国とされるフィンランドの教育動向を現地の生の声をもとにレポートします。今回は、フィンランドの学習指導要領に明記され、総合学校(小中学校)で育むべきとされている7つの能力「Transversal Competences」について紹介。一見日本の教育の「生きる力」とも似ているこの能力を伸ばすことについて、現場の先生たちはどのように捉え、具体的にどのような実践で授業へと落とし込んでいるのでしょうか。現地の先生のインタビューも交えて、この考え方について解説します。

「Transversal Competences」とは? 21世紀を生きる力

 「Transversal Competences」を日本語に直訳すると、「Transversal=広範囲的な」「Competence=能力」となります。

7つの能力で構成されるTransversal Competences(https://slideplayer.com/slide/12962224/)より
7つの能力で構成されるTransversal Competences(Finnish Curriculum Reform Building the Futureより)

 これは科目の領域を超えた、21世紀に必要な幅広い力と言えるでしょう。学習指導要領には、「Transversal Competenceは、知識、スキル、価値観、態度そして意志全てから成り立つもので、Competenceは知識やスキルを与えられた状況下で、応用することができる能力のこと」と記されています。

 以下の7つのコンピテンシー(能力)で構成されます。

  • T1:思考、学び方を学ぶこと
  • T2:文化的な能力、インタラクション、自己表現
  • T3:自分自身のケア、日常生活のスキル
  • T4:マルチリテラシー
  • T5:ICTスキル
  • T6:ワークライフスキルとアントレプレナーシップ
  • T7:市民としての民主主義への参加、影響を与えること、持続可能な未来の建設

フィンランドの2014年版学習指導要領で登場

 このTransversal Competencesは、2014年にフィンランドの学習指導要領にあたるものの中に初めて登場しました。

 フィンランドの学習指導要領は、National Core Curriculumと呼ばれ、日本同様10年に一度改訂されます。教育文化省とFinnish National Board of Education(フィンランド国教育委員会)が中心となり作成します。日本の学習指導要領に近しいもので、国が定める国家横断のガイドラインです。

 2014年制定、2016年施行版が最新のものであり、基礎教育課程(小中学校一体)で508ページあります。基本的な考え方と学年ごとの章があり、学年ごとの章の中では科目ごとの記載が含まれています。

 この中の中心的な取り組みとして、Transversal Competencesは登場しました。

教育現場に浸透しているTransversal Competences

 ここまでの内容を聞くと、日本とあまり違いはないように聞こえます。知人と話していると「日本の『生きる力(※)』と同じようなものでは?」とのコメントをもらうことも多々あります。

※生きる力…学習指導要領に盛り込まれている、激しい変化の社会を生き抜くための知・徳・体のバランスのとれた力

 ですが、フィンランドが面白いのは、この浸透度。現場の先生に話を聞くと、ほとんどの先生がその内容を理解し、実際に授業で取り組んでいます。

 フィンランドの先生たちがTransversal Competencesについてどのように捉え、実践しているのか、以下の2名の先生が教えてくれました。

(1)A校(0~2年生複式学級の先生)のコメント

 ※0年生:就学前教育として行われる、保育園から小学校への橋渡しとなる学年。

 Transversal Competences、もちろん知っています。フィンランドの全ての学校が取り組んでいます。7つのコンピテンシー(能力)が身につけられるように、全ての科目の中で教えていくものです。これらのコンピテンシーを技術として授業の中に織り込んでいくのです。例えば、T5のICTスキルであれば、読み方を学ぶときに、意図的にパソコンを使って進めたり、個別のタブレットのアプリケーションを使って行ったりします。各Transversal Competencesは個別に分けることはできないので、常に私たちが教えていること全ての中に入れ込んで混ぜ合わせていくのです。T6のワークライフスキルとアントレプレナーシップに関しても、いま日常の学びの中で、「自分自身の考えを表現する」ということに注力して取り組んでいます。

(2)B校(7年生の先生)のコメント

 ※7年生:日本の中学1年生にあたる学年。

 例えば、学校全体としては、T1~7のCompetenceについて、どう取り組んでいるか、どう取り組もうと考えているかのアンケートが各教員にとられています。まだ過程なので、全てのCompetenceについて、全ての教員が取り組んでいるわけではありませんが、調査をすることで、既に取り組んでいる教員のナレッジを知ることができ、そこからヒントを得て自分のクラスでどうするか検討することができます。

 例えばT5のICTスキルに関して「歴史の授業において、スライド作りをしている」といった例があれば、「では音楽でもスライド作成を取り入れても生徒たちは慣れていて練習になるだろう」など。いろいろな科目で既にスライド作成をしていれば、「では自分の授業では動画撮影と編集にチャレンジしてみよう」などと考えて進化させることができます。

 私は、T6のワークライフスキルとアントレプレナーシップは難しいと感じました。自分たちでアイデアを出して何かを企画し、発表するといったことはできるでしょう。ただ教員側からアイデアを出してタスクとしてやらせては意味がないので、どのような形で自分の担当科目の中で、生徒たちの主体的なマインドセットを作っていくのか考えているところです。


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著者プロフィール

  • 田中 潤子(タナカ ジュンコ)

     オウル大学大学院教育学部Education and Globalisation在籍、フィンランドのアントレプレナーシップ教育について研究中。新卒で求人広告会社に就職。営業、新人育成などを担当したのち、特非)放課後NPOアフタースクールに転職。小学生の放課後の居場所運営に携わる。企業行政連携チーム、...

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