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「子どもを一番に考える」――フィンランドにおける学校組織のスクールリーダーシップの現状や役割を現地の研究員が語る

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2021/10/04 07:00

 教育の質が高いと言われるフィンランドだが、学校の管理職はどのような人がなるのか? はたまた、どのような過程を経てなっているのだろう? あまり知られていないが、オンラインイベント「フィンランド教育最前線」シリーズにフィンランド国立教育研究所で教育リーダーシップについて研究している矢田匠氏が登場、「フィンランドの学校組織における教育リーダーシップと管理職の役割とは?」として、紹介した。

フィンランド国立教育研究所 ポスドクリサーチャー 矢田匠氏
フィンランド国立教育研究所 ポスドクリサーチャー 矢田匠氏

教育リーダーシップのトレンドは共有、協働

 矢田氏は2013年にフィンランド・ユヴァスキュラ大学に入学、以来フィンランド在住だ。現在は、日本の国立教育政策研究所に相当するフィンランド国立教育研究所でポスドクリサーチャーを勤めている。専門は教育リーダーシップ論。学校や教育運営組織でのリーダーシップについての研究で、具体的には教育学、リーダーシップ論、組織心理学の3つを組み合わせ、さらに統計学のアプローチを用いて研究していると言う。

 リーダーシップ研究は時代背景により変遷を遂げてきた。これまでの流れとしては、「どのようなパワーをリーダーは持っているのか/どのような権力を与えるのか?」といった権利・役割・職務から特性・資質などリーダーに焦点が当たっていたが、このところフィンランドでは「共有型、協働型」にフォーカスが当たっているそうだ。そのようなリーダーが必要とされる理由について矢田氏は、「学校を取り巻く問題が多種多様、複雑化している」と説明する。先生だけでなく、事務、管理者、IT、特別指導教員、カウンセラーといった人たちをすべて巻き込み、応援していくリーダーとして、フィンランドは共有型、協働型を志向しつつあると言う。

 ではどのような過程を経て教育リーダー(校長)になっていくのだろう? 日本では、経験ある教員に声がかかるパターンが多い。これに対し、フィンランドでは適性が重視されているようだ。プロセスとしては、(教育を提供する立場としての)自治体が校長を公募、応募者の中から自治体が最終決定を行うがそこで適性が勘案されるそうだ。学校の教職員が応募することもあれば、外部からの応募もあるとのこと。なお、フィンランドでは管理職も教員も基本的に異動はない。キャリアを通じて同じ学校の校長や職員を続けることも可能だ。

 矢田氏が驚いたという事例として、ある学校の校長が研究休暇をとって大学に出向している間、代理の校長が就任した話を紹介した。元々の校長が大学から戻るとなったときは代理を勤めていた校長が校長職を継続したいといったので、元の校長はクラス担任に戻ったと言う。最終的に、保護者と教員で構成される理事会が代理の校長を正式に校長にすると承認したそうだ。代理だった校長は30代半ば、日本の感覚では校長としては「若い」が、「自分がやりたいと思えば若い人でもやるし、それを周囲も応援する風土がその学校にはあった」と矢田氏。

必須ではないが重要視されるスクールリーダーシップ証明書

 矢田氏によると、フィンランドで校長になるための資格と条件は、以下の3つだと言う。

  1. 勤務校種の教員資格を持っている(小学校の校長になるためには小学校の教員資格が必要。同様に、中学なら中学、高校なら高校の各教員資格が必要)。
  2. 教員経験がある程度ある。
  3. 大学または専門機関の発行する「スクールリーダーシップ証明書」を保持している。または、それと同等の学校行政や運営に関する知識を保持している。

 3.の「スクールリーダーシップ証明書」は必須ではないが重要視されており、矢田氏によると最近はほぼすべての校長が保有しているとのことだ。ここから分かるように、日本で見られるような民間からの登用はない。この点も日本との違いとなる。

 では、ほとんどの校長が保有する「スクールリーダーシップ証明書」はどのようなものか? ここに、フィンランドが学校管理職に求める力量、そのためにどのように養成をしているのかのヒントがありそうだ。

 力量については、「養成する大学の自律性が強いため、定義らしいものはない」と言う。矢田氏が学んだユヴァスキュラ大学はフィンランド初の教員養成学校として設立された歴史があるが、ユヴァスキュラ大学のスクールリーダーシップ養成プログラムはどうなっているのだろう。

ユヴァスキュラ大学のスクールリーダーシップ養成プログラム
ユヴァスキュラ大学のスクールリーダーシップ養成プログラム

 同大学の養成コースが学ぶテーマは大きく3つ。1つ目が「職業的アイデンティティ」で、自身が職業的にどのような校長やリーダーを目指すのかを学ぶ。2つ目は、「職業的専門技能」。ここでは、教育行政、マネジメント、リーダーシップの基本的な概念など、自分に必要な知識やスキルを習得する。3つ目は「職業的エージェンシー」で、どのように行動すればいいのかを観察実習を通じて学ぶ。

 期間は14か月。10回の「対面授業」、1人のチューター(当該プログラムの卒業生で現職の校長)が5~7人の受講生を持つ「チューターグループ」、「オンライン学習」、4回学校訪問を実施して着眼点シートに基づいてレポートする「実習」で構成される。

 対面授業は金曜日午後からと土曜日にかけて2日間にわたって行われる。対面授業の最後に課題が提示されレポートを作成するということを繰り返す。文献を見ながら学ぶだけではなく、自分の学校はどうかについても考える「経験学習的な勉強」だそうだ。

 チューターグループは随時アクティブになっており、議論や対話の場として活用されている。

 実習では、実習先の校長先生をメンターとして行動を共にしながらどのような仕事をしているのかを観察する(シャドーイング)。着眼点シートは訪問回により異なり、1回目は「メンターのキャリアパスと自身のリーダーシップへの期待」、2回目は「学校の年間計画」、3回目は「年度始めの重要性と自身のリーダーシップ育成」、4回目は「年度の終わりの重要性とリーダーシップの基本理念」がテーマ。それぞれに対して、目的、着眼すべき視点、そしてウェルビーイングの3分野で観察ポイントが挙がっている。

 観察ポイントを詳しく見てみると、メンターのキャリアパスとして、「なぜ校長になりたいのか?」「実現したい夢は?」などと自分のアイデンティティを深掘りしていき、自分のゴールやミッションについて考えるほか、メンターである校長先生の教育方針やミッション、それが学校でどのように体現されているのかをみる、などとなっている。このように「教育方針はどのようにリードされているのか」「予算はどうなっているのか」などと合わせて、矢田氏が「フィンランド的」というのがウェルビーイングだ。ここでは、「どういうことが幸せだと思うか」「メンターはどう言うことを幸せだと思っているのか」などのポイントが並んでいる。中でも「春休みや長期休暇に対する幸福感と展望」がウェルビーイングに入っていることを指摘し、「フィンランドでは休みもその人の仕事のうち。どのような価値観を休みに対して持っているのかを見ている」と説明した。

 このように養成コースを紹介しながら、矢田氏は「こういう能力をつけてきなさい、というものではなく、自分はどう考えるのかという方向で受講生たちを導いている」とポイントを分析した。

 受講料は約30万円ほど。受講生の9割が現職の教員で、小・中・高校はもちろん、保育園、専門学校の教員、地方行政などの人もいると言う。残り1割がユヴァスキュラ大学の教員養成学部から選抜された学生。女性も多く2019年度は約50人の参加者のうち80%が女性。年齢は20歳~60歳と幅広いが、比較的若い人が多いとのこと。


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著者プロフィール

  • 末岡 洋子(スエオカ ヨウコ)

    フリーランスライター。二児の母。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている。

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