広島県はスピード改革のまっただ中だった
2018年4月に広島教育長に就任した平川氏は、これまでの2年間ですでに県内の教育の姿を変えようと動いてきた経緯がある。「チョーク&トーク」と呼ばれる講義型の授業スタイルや知識、暗記重視の学びから脱却すべく、「個別最適化」をキーワードにさまざまな施策を行ってきた。
パソコン等のICT機器を授業でほとんど使わないことに対しても、学校現場の様子と世界的なデータの両面から危機感を持ち、2019年には、県立高校で1人1台のパソコン環境をBYOD(Bring Your Own Device:個人所有の機器を持ち込んで使用すること)で実現する方針を固めた。広島県のICT環境は、教育用コンピューターの整備状況が全国42位(平成30年度文部科学省調査)という「下から数えた方が早い」状況だったが、この2020年4月から県立高校81校中35校で新1年生からの活用をスタートする準備を整えてきた。教育用クラウドサービスの活用については、昨夏から教員研修も行っている。
BYODとは言え、公立の学校として、機器を用意できない家庭へのサポートは当然必要となる。そこで、パソコン本体と月々の通信費に相当する額を給付する「学びの変革環境充実奨学金」を創設し、実際の給付月までのタイムラグを埋めるために、「入学準備金」の貸し付け制度も整えた。
元来、こうした新しいチャレンジにはとても時間がかかる。そこを、平川教育長は強い意志で猛スピードで改革してきたわけだ。
しかし、そのまっただ中で、今年3月の頭から一斉休校に直面することになる。
休校を受け、急ピッチでまずは全員へG Suiteアカウントを
新型コロナへの対応が長期化することを想定し、子どもたちの学びの機会確保と心身の問題をケアするには、オンライン上の仮想教室が必要だと判断した平川氏。その実現に必要なのは「アカウント」「デバイス」「通信手段」の3つで、まさに1人1台環境を整備してきたポイントと一致する。これを県全体で整えることを決めて動き出した。
まずは「アカウント」の準備を優先し、新学期には県立高校の全生徒にG Suiteのアカウントを配付した。アカウントさえあれば、個人所有のデバイスでアクセスしてもらうことで、とりあえず学校と生徒のコミュニケーションの手段を確保できる。広島県では4月にいったん学校を再開できたので、始業式直後から、とにかくG Suiteにログインするよう呼びかけたという。再びいつ休校になっても大丈夫なように備えたのだ。
間もなく4月16日にはすべての県立学校が再び休校となった。もちろん学校によってクラウドサービスの活用度合いはさまざまだが、それ以降、毎日の健康観察をはじめ、朝学活への活用や、授業動画の公開、1日5時間の授業を行った学校もあった。できることから、できる学校が着手している。
「デバイス」と「通信手段」は、4月の始業式でアンケートをとった結果、それぞれ12%程度の生徒が持っていないことがわかり、これに対しては、8.8億円の補正予算を組んで対応するところまで来ている。市場に出回る製品が足りず、必要数を調達するのが大変な状況だったが、準備できたものから順次貸し出している状況だ。
また、小中学校の設置者は県ではなく市町だが、4月の休校以降、県内23市町に連絡を取り、クラウドサービスの活用を呼びかけてきた。すべての教育長にコンタクトを取って連携し、今後県内すべての市町でも児童生徒のクラウドサービスの活用が進む予定だ。