デジタルツールでしか実現できない経験を提供し、学びに活かす
3月の受賞発表前、2月頃から子どもたちはそわそわしており、落ち着かない様子だったという。
「受賞というより、がんばった分が評価されたことがうれしかったのだと思います。芸術やスポーツなどでは表彰を受ける機会もありますが、こうしたデジタルツールを用いたクリエイティブな作品については、小学生ではなかなか発表の場がありません。そうした意味で、子どもたちにとっても大変いい機会になり、感謝しています」(広瀬教諭)
受賞後は、家族や友人、学校関係者はもちろん、3年生の時に環境学習の「川ゴミ調べ活動」でお世話になった大阪商業大学の原田禎夫先生や、ICT活用の共同研究を行っている大阪大学の岩居弘樹先生などにも「感謝を伝えたい」と語っており、受賞がそれまでの集大成であることを理解していたことが伺える。
「1年間SDGsについて学んでも、小学生だとある時点で自分たちだけでは解決できないと感じてしまうことがあります。しかし今回、学んだことや考えをWebページにまとめて発信するという体験をしたことで、子供たちは世界に向けて課題意識を共有しもっと知ってもらうための行動をとることができると気づきました。Adobe Sparkではテンプレートに沿って簡単にデザイン性のあるWebページが作れるので、子どもたちのモチベーションも上がりました。課題解決の後にクリエイティブな活動をゴールとすることの効果について実感したので、総合的な学習の時間ではもちろん、他の教科においても活かしていきたいと思います」(広瀬教諭)
冒頭で紹介したように、もともと同校ではiPadが高学年には1人1台貸与されており、校内外でLTE回線での常時接続が可能である。日常的に調べ学習で活用されるだけでなく、iPadのカメラを使って理科の実験を撮影したり、新聞を作ったり、また月の満ち欠けを表現したりするのにARアプリを使うなど、さまざまな場面で使われている。また外国語活動では、リモート会議ツールの「Zoom」を用いた遠隔授業で岡山県備前市の小学校の子どもとコミュニケーションを楽しんだ。また、京都市内への社会見学でiPadを使った翻訳で外国人と交流するなど、「ICTツールがなければできないこと」を実践している。
「近年、ICTツールの導入が進んでいますが、単にこれまでアナログでできていた部分を置き換えるだけでは意味がありません。これまでできなかったこと、例えば今回のように映像をつくる、みんなで共有する、フィードバックをもらうといった一連の活動や、ネットを通して社会とつながるなど、新たな価値を提供できて初めて教育が変革されるのではないかと思っています」(広瀬教諭)
それらは決して目新しいものではないという。子どもたち一人ひとりが異なる中で、クリエイティブ学習についてはもちろん、個別最適化された学びについても多様な活用がかなう。例えば、概念的な学びであっても、ドリルで繰り返すだけでなく、映像を見て理解したり、作る活動を通して定着したりするものも多い。例えば、「食物連鎖」という概念も、動画を作ってみることで具体的なイメージを持つことができる。時に、そうした学びのアイデアについて、広瀬教諭からの指導もさることながら、子どもたちの思いつきから始まるものも少なくないという。
「私たちの世代までは、これまで自分たちが習ってきたことを次の世代に教えることが教育でした。しかし、これから先は、子どものころからスマートフォンなどデジタルに親しんできた先生が増えることで、さまざまな創造的な授業が生まれることと思います。おそらく先生よりも、子どもたちが先にできるようになることも増えてくるでしょう。そうした子どもたちや若い世代の邪魔しないよう、彼らの創造性を自由に羽ばたかせることがこれからの教育には求められると思います」(広瀬教諭)