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アドビのコンテスト受賞校、東別院小学校の取り組みに見る「創造的問題解決能力」を育む授業の在り方とは

「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」受賞校インタビュー

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2020/04/27 12:00

 変化の激しい時代の到来とともに、複雑化・多様化する社会的課題を解決する能力が求められるようになり、教育の現場でも「創造的問題解決能力」の育成が重要なテーマとなりつつある。そのニーズに応え、アドビでは学校におけるクリエイティブ教育の支援を目的に、さまざまなツールとともに教育関係者への知見やノウハウ共有の機会を提供している。2019年11月28日~2020年1月31日にかけて開催された「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」もその一つ。今回はその優秀賞受賞作品の中から、亀岡市立東別院小学校(京都府)の「Our SDGs 私たちの提案する 豊かで幸せな未来」の取り組みについて紹介する。

小・中・高校を対象にした部門で優秀賞に選ばれた東別院小学校

 未来を生きる子どもたちの「創造的問題解決能力」の育成を支援するべく、アドビが開催した「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」では、国連が国際社会共通の目標として掲げた「SDGs:Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」をテーマに、Adobe Premiere Rush(アドビプレミアラッシュ:ビデオ編集ソフト)またはAdobe Spark(アドビスパーク:コンテンツ作成ソフト)を使用して制作した作品の募集が行われた。単なる作品コンテストではなく、課題発見から解決のプロセスにおける試行錯誤やアイデアの視覚化、プレゼンテーションに至るまでが評価され、総合的な「創造的問題解決能力」育成に寄与することを目的としているという。

 学校部門の優秀賞として選ばれた亀岡市立東別院小学校では、「Our SDGs 私たちの提案する 豊かで幸せな未来」と題し、6年生の8人全員が参加して作品を作り上げた。SDGsの17のゴールについて分担して調べ、解決のためのアイデアを考え、意見を交換し、そのまとめとしてWebサイト、ポスター、動画を組み合わせて表現している。テーマに関する気づきから、アウトプットまで一連の課題解決のアプローチがなされていることが評価され、受賞の決め手となった。

一人ひとりの興味関心から出発し、世界の問題へとつなげる

 もともと同校では、小規模特認校として特色ある教育活動を打ち出し、積極的に展開してきた。また大阪大学との共同研究のもと、高学年の子どもに1人1台のタブレット端末を導入し、個別最適化された学びやグループワークなど新たな学習手法に取り組んでいる。SDGsについても、実は元々5年生の3学期から「総合的な学習の時間」で学び、約1年間にわたりシンキングツールなどを用いながら概念を整理したり、自分たちの意見などを取りまとめたりしてきた。

 指導教員である広瀬一弥教諭は、SDGsについて「世界が抱える大きな社会問題でありながら、カラフルなアイコンと分かりやすい言葉で表現がなされているので、子どもたちも関心を持ちやすかったように思います」と語る。

亀岡市立東別院小学校 広瀬一弥教諭
亀岡市立東別院小学校 広瀬一弥教諭

 まずはSDGsの17の項目を、一人ひとりの「自分の興味」に基づいて、シンキングツールのピラミッドチャートで整理し、クラスで共有した。その中から各自、自分が最も関心を持ったものについて、KWL(Know-Wonder-Learn)チャートを用いて「知っていること(What I know)」、「知りたいこと(What I want to know)」「習ったこと(What I learned)」を書き出した。さらに調べ学習の時間を使って、主体的に自分でさまざまな情報を調べて項目を充実させていき、それらを「事実・伝聞・推測・意見」に分類して、さらに自分の意見として集約させていった。

SDGsについて、興味をもった項目をシンキングツールのピラミッドチャートで整理し、クラスで共有。
SDGsについて、興味をもった項目をシンキングツールのピラミッドチャートで整理し、クラスで共有。
その中で、各自が最も関心を持ったものについてKWLチャートで振り返った。
その中で、各自が最も関心を持ったものについてKWLチャートで振り返った。
そこから主体的にさまざまな情報を調べ、分類し、自分の意見として集約した。
そこから主体的にさまざまな情報を調べ、分類し、自分の意見として集約した。

 ここまでに約20時間かけたというが、1人で調べ学習を続けているだけではどうしても飽きてしまう。そこで、時々国連のサイトに掲載されているSDGsの動画を一緒に観たり、途中で情報共有シートにまとめてプレゼンテーションを行い、先生や他の子どもからのアドバイスを受けたりしながら、進めていった。また調べ学習中にも、お互いに作業シートを見せあったり、意見を言い合ったり、自然と相互のフィードバックが行われていたという。

 なお、その中でとりわけ子どもたちが「興味がある」として強く認識したのが、自然にまつわるテーマだ。同校は自然豊かな山間部にあり、子どもたちも小さな頃から野山や川で遊んできた。その豊かな自然とのふれあいの経験、そして3年生から継続して行われてきた環境学習で得た知識が、SDGsで触れられている世界の環境問題へと直結し、自分ごととして深堀りして考える動因になった。また他にも自分たちと同じ年ごろの子どもたちが厳しい環境に置かれていることに対しても問題意識を持ち、貧困解消について考える起点にもなったり、興味のある「森を守ること」を調べるうちに「海を守ること」にも興味を持つようになったりしたという。

 「SDGsそのものが明確な世界観を持ち、17項目にわたる問題がそれぞれ密接に関係していることが示されているので、個人の身近な興味から、他の興味へ、そして全体へと広がり、同時に深堀りして考えることができます。子どもたちもそれが体感できたように思います」(広瀬教諭)

伝えたい思いの表現に「枠を設けないこと」を重視

 そうした学習を続ける中で、本コンテストに応募するきっかけとなったのは、広瀬教諭がSNS上で同コンテストの広告を見かけたことだという。それを子どもたちに伝え、話し合いのもと、これまでの学習の成果物としてデジタルコンテンツを作成することにした。

 「実はサイトや動画を作成したのは実質2週間程度でした。しかし、それまでの1年間の集大成ということ、そしてAdobe Sparkを使うと簡単に想像以上の作品がつくれるということで、集中して取り組むことができました。改めて子どもたちの集中力、創造性に驚かされました」(広瀬教諭)

 Adobe Sparkを使ったのは初めてだったが、操作にまったく支障はなかったという。タイピングは5年生の夏から1人1台のiPadで実践していたこともあって原稿用紙に書くのとほぼ同じスピードで入力できる。そうしたICTツールと親しんでいたこともあり、Adobe Spark自体の操作にもすぐに慣れた。Adobe Sparkは著作権フリーの画像やテンプレートが豊富で、簡単に作品ができることを楽しんでいたという。

Adobe Sparkとは

 テンプレートを使って、テキストや写真などの素材を組み合わせることで、プロ品質のグラフィックを簡単に作成できるコンテンツ作成ツール。Webページやショートムービーの制作にも対応している。

 Webアプリのほか、モバイルアプリでグラフィック制作用の「Spark Post(iOS/Android)」、Webページ制作用の「Spark Page(iOSのみ)」、動画制作用の「Spark Video(iOSのみ)」も提供されている。

Webページを作成できる「Adobe Spark Post」の画面
Webページを作成できる「Adobe Spark Post」の画面

 「最初からこの作品をつくることをゴールにしてきたわけではありません。ただ、1年間という時間をかけてかなりSDGsについて学んでいたので、子どもたちにも『伝えたい』という気持ちが高まってきていました。伝えたいことと、伝える手段があれば、子どもたちはちょっと難しいことでも容易に乗り越えていく力をもっていることを改めて感じました」(広瀬教諭)

 作品を作る上で心がけたこととして、広瀬教諭は「枠を決めすぎないこと」を挙げる。最終ゴールは決して美しく仕上げることではなく、思いのままに調べ、考え、表現することの楽しさを知ること。そう割り切ることで、ある程度好きにさせるようにした。大人から見ると、時には誤っていたり、子どもによって差ができたり、表現が想定外だったりすることもある。しかし、その子どもがその時に感じたこと、やろうとしていることを受け止め、感じ方や表現の多様性として認めることを重視したという。

自ら思いのまま調べ表現する子どもたち
自ら思いのまま調べ表現する子どもたち

 「結果、自分たちの興味のある部分は要素が多く、密度の濃いビジュアルになり、関心が薄いものについてはややあっさりした印象になりました(笑)。それもまた子どもたちのリアルであり、多様性の賜物だと思います。そして、教師にとっては創造的な学習の醍醐味であり、面白さだと思います」(広瀬教諭)

デジタルツールでしか実現できない経験を提供し、学びに活かす

 3月の受賞発表前、2月頃から子どもたちはそわそわしており、落ち着かない様子だったという。

 「受賞というより、がんばった分が評価されたことがうれしかったのだと思います。芸術やスポーツなどでは表彰を受ける機会もありますが、こうしたデジタルツールを用いたクリエイティブな作品については、小学生ではなかなか発表の場がありません。そうした意味で、子どもたちにとっても大変いい機会になり、感謝しています」(広瀬教諭)

 受賞後は、家族や友人、学校関係者はもちろん、3年生の時に環境学習の「川ゴミ調べ活動」でお世話になった大阪商業大学の原田禎夫先生や、ICT活用の共同研究を行っている大阪大学の岩居弘樹先生などにも「感謝を伝えたい」と語っており、受賞がそれまでの集大成であることを理解していたことが伺える。

 「1年間SDGsについて学んでも、小学生だとある時点で自分たちだけでは解決できないと感じてしまうことがあります。しかし今回、学んだことや考えをWebページにまとめて発信するという体験をしたことで、子供たちは世界に向けて課題意識を共有しもっと知ってもらうための行動をとることができると気づきました。Adobe Sparkではテンプレートに沿って簡単にデザイン性のあるWebページが作れるので、子どもたちのモチベーションも上がりました。課題解決の後にクリエイティブな活動をゴールとすることの効果について実感したので、総合的な学習の時間ではもちろん、他の教科においても活かしていきたいと思います」(広瀬教諭)

 冒頭で紹介したように、もともと同校ではiPadが高学年には1人1台貸与されており、校内外でLTE回線での常時接続が可能である。日常的に調べ学習で活用されるだけでなく、iPadのカメラを使って理科の実験を撮影したり、新聞を作ったり、また月の満ち欠けを表現したりするのにARアプリを使うなど、さまざまな場面で使われている。また外国語活動では、リモート会議ツールの「Zoom」を用いた遠隔授業で岡山県備前市の小学校の子どもとコミュニケーションを楽しんだ。また、京都市内への社会見学でiPadを使った翻訳で外国人と交流するなど、「ICTツールがなければできないこと」を実践している。

リモート会議ツールで、地理的に離れた小学校の子供たちとコミュニケーションをとる様子
リモート会議ツールで、地理的に離れた小学校の子供たちとコミュニケーションをとる様子

 「近年、ICTツールの導入が進んでいますが、単にこれまでアナログでできていた部分を置き換えるだけでは意味がありません。これまでできなかったこと、例えば今回のように映像をつくる、みんなで共有する、フィードバックをもらうといった一連の活動や、ネットを通して社会とつながるなど、新たな価値を提供できて初めて教育が変革されるのではないかと思っています」(広瀬教諭)

 それらは決して目新しいものではないという。子どもたち一人ひとりが異なる中で、クリエイティブ学習についてはもちろん、個別最適化された学びについても多様な活用がかなう。例えば、概念的な学びであっても、ドリルで繰り返すだけでなく、映像を見て理解したり、作る活動を通して定着したりするものも多い。例えば、「食物連鎖」という概念も、動画を作ってみることで具体的なイメージを持つことができる。時に、そうした学びのアイデアについて、広瀬教諭からの指導もさることながら、子どもたちの思いつきから始まるものも少なくないという。

 「私たちの世代までは、これまで自分たちが習ってきたことを次の世代に教えることが教育でした。しかし、これから先は、子どものころからスマートフォンなどデジタルに親しんできた先生が増えることで、さまざまな創造的な授業が生まれることと思います。おそらく先生よりも、子どもたちが先にできるようになることも増えてくるでしょう。そうした子どもたちや若い世代の邪魔しないよう、彼らの創造性を自由に羽ばたかせることがこれからの教育には求められると思います」(広瀬教諭)

コンテストに参加した亀岡市立東別院小学校の6年生(当時)
コンテストに参加した亀岡市立東別院小学校の6年生(当時)

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修正履歴

  • 2020/04/28 11:14 原田先生の所属、お名前に誤りがありましたので訂正いたしました。大変失礼いたしました。

著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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