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「教えない指導」の時代…クリエイティブスキル学習に効果的な、動画+人的アダプティブラーニングとは?

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2020/01/08 07:00

 デジタルハリウッド大学院が毎年開催する「近未来教育フォーラム」では、デジタルコンテンツ界隈の識者やビジネスリーダーの話に加え、同校が実践するさまざまな教育スキーム、カリキュラムの発表が行われる。デジタルハリウッドで動画教材の開発に長年携わり、同校の非常勤講師も務める石川大樹氏が、今期研究を進めている新しいアダプティブラーニングの取り組みについて発表を行った。この研究は、「動画を活用するeラーニングやAIなど、技術を駆使するアダプティブラーニングは、実はデジタルスキルの習得に難しい面がある。それを克服するにはどうすればいいか」(石川氏)という、自身の動画教材づくりと大学講師の活動の中で生まれたものだという。

デジタルスキル学習のトレンド

 本題に入る前に、石川氏はまず学びとはなにか、勉強となにが違うのかについて整理し、動画学習やeラーニングの現状を次のように分析した。

デジタルハリウッド大学院 非常勤講師 石川大樹氏
デジタルハリウッド大学院 非常勤講師 石川大樹氏

 認知科学で有名な東大の佐伯胖教授によれば、勉強は、「教えに従って身につけるべきことを身につける」こと。学びとは、自分から「こうありたい」自分になることだという。石川氏は、勉強を苦痛に感じたり続かなかったりするのは、最初に「こうありたい自分」がないからだとする。自分がどうありたいという動機があれば、むしろ勉強したい、というモチベーションにつながる。

 デジタルスキル学習においては、特にこれが重要だという。

 そのデジタルスキル学習では、現在eラーニングが活用されている。トレンドは、マイクロラーニング、モバイルラーニング、動画コンテンツ、ゲーミフィケーション、アダプティブラーニング、AIの6つあるとされている(elearningindustry.comより)が、石川氏は、これを下図のように3つに分類する。

 マイクロラーニングとモバイルラーニング、動画コンテンツは、多くの場合一緒に語られることが多く、ソリューションも一体化したものが多い。同様にアダプティブラーニングは、現在だとAI(機械学習)と組み合わせて、より個別適用の精度をあげる取り組みがほとんどだ。ゲーミフィケーションだけ独立している。

 石川氏は、デジタルハリウッド大学院では主にマイクロラーニングと動画を組み合わせた授業を展開している。ここでの課題は、やはり出席や課題の提出などモチベーションの問題だという。毎回受講者全体の1割ほどは、オンライン講座を1回も視聴せず修了の時期を迎えている。さらに、受講を続けていても、仕事、その他に理由で途中から受講しなくなる層も存在する。

個別指導で効果を発揮するアダプティブラーニング

 その原因は、おそらく、学びにおける「こうありたい」がないからだと石川氏は推測した。そこで注目したのがアダプティブラーニングだ。アダプティブラーニングは、共通テストなどを通して学習者一人一人の理解度を分析し、個別学力に最適化した学習コンテンツを提供してくれる。支えるのはAI技術だ。

 こういったAI型のアダプティブラーニングは、学習塾、個別学習では非常に高い効果を発揮する。また、無学年学習などの既成教育に縛られない柔軟な利用、対応も可能だ。ただし、こういったアダプティブラーニングが効果を発揮するのは、まず、課題や問題、そしてそれに対する答えが決まっているから。加えて、そもそも理解できていない分野や単元が問題として出されるので、効果も高くなる。同様に、自分が何をやればよいのか適切な指示をしてくれる。そして、塾などでは受験や成績など自分に直接かかわる内容であることも大きい。

 しかし、デジタルスキル系の学習の場合、これをそのまま適用してもそれほど高い効果は期待できない。なぜなら、プログラミング、CGモデリング、Webデザイン、映像制作、ゲーム、どれをとっても決まったの正解を導くものではない。答えを提供することは困難だ。また、単元や勉強範囲もまちまちで、どれをどこまで極めるか、知識を得るかは、作りたいもの、目指すものによって変わってくる。AIといえど、定量的な正解例のデータがないと機械学習モデルを作ることはできない。

重要なのは「なりたい自分」があるかどうか

 加えて、これらのスキルは受験や学校の成績に直接関係しない。「できなくても死なない」と石川氏は言う。自身もゲーミフィケーションを採り入れたPythonのオンライン学習講座を受講したことがあるがやはり最後まで続かなかったそうだ。その原因は、自分にあったと明言する。

 「その講座は、実際効果を実感し、とてもよい講座だった。プログラミングスキルも身についた。途中でやめてしまったのは、圧倒的なクリエイション欲求がなかったからだ。Pythonプログラミングができるようになりたい、就職のためにWebデザインを覚えておきたい、こういった理由だと勉強、学習は持続しない。こんなCG作品を作りたい、こんなサービスを作りたい、といった具体的な目標、目的がないと、どんなに素晴らしい学習教材、コンテンツ、サービスを利用しても挫折します」

 順番としては、「技術を覚えて何かを作る」ではなく「〇〇を作りたいから技術を覚える」が重要で、このはき違えが挫折につながる。

 では、作りたいもの、実現したいものの明確化を手助けしたり、実現に必要な要素(技術・知識)は何かをアドバイスしたりできれば、アダプティブラーニング、ひいてはeラーニングの効果をさらに上げることができるのではないか。特に、学習者の変化や成長に合わせたアドバイスや気づきをうまく提供することまで考えた場合、それは現在のAIでは不十分で、人間の力が必要な領域だ。

 石川氏がたどり着いた「人的アダプティブラーニング」は、このようにして生まれたメソッドといえる。


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著者プロフィール

  • 中尾 真二(ナカオ シンジ)

    フリーランスのライター、エディター。 アスキーの書籍編集から始まり、翻訳や執筆、取材などを紙、ウェブを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは当時は言わなかったが)はUUCPの頃から使っている。

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