子どもたちが将来「英語をどう使うか」は変わりゆく、その変化を意識した教育を
私が主導・運営したオンライン英会話の実証実験授業では、上の記事にある通り、学生の英語力向上や、モチベーションの増進といった効果が認められました。これによって、2019年度から学部全体への導入へと動いています。この新しい挑戦には、現在の英語教育の課題を乗り越える鍵が詰まっています。そこで本連載では、実証実験として行ったオンライン英会話授業の結果やノウハウを共有するだけでなく、「これからの英語教育に必要なものは何か?」「効果的な英語指導・学習と何か?」を考えていきたいと思います。
連載の第1回は、自己紹介も兼ねて、教員の経験を振り返りながら、子どもたちの学びと教員の指導の変化について、いくつかの思いをつづる機会としたいと思います。これまで長年、東洋英和女学院大学で英語教育に携わってきました。学生時代を終えて最初に大学の教壇に立ちましたが、「学生の来た道を知らなければ、今を正しく見ることができない」という恩師の進言にしたがい、ほんの数年間でしたが、複数の私立高校で非常勤として授業を担当したこともあります。これはとても貴重な経験でした。
当然ですが、教員は誰でも中学生や高校生だった経験があるので、中高のことはわかっている「つもり」になりがちです。しかし、例えば大学の教員が、中高の現場が変化していることを忘れ、いつまでも自分の時代の指導が現場で継続していると思い込むことは、学生とのすれ違いの原因になります。短期間でも高校生と向き合った経験から、時々立ち止まり、目の前の学生の「来た道」はどのようであったかと思いをはせることができることを、ありがたく感じています。
教育現場は便宜上、小学校から大学まで、6-3-3-4の年数に区切られていて、教員はそれぞれの持ち場において指導をするわけです。けれども、子どもたちは常に連続性の中にいて、知識や経験を積み上げながら学び進んでいきます。彼らの学びの一時期しか担当しなくても、その連続性を常に意識して、彼らの「来た道」と「行く道」の間の「今」に責任を負う気持ちを忘れないでいたいものです。
英語教育に関しても同様です。現在形の前に過去形を教える教員はいませんし、現在完了形を知らない生徒たちに過去完了形を教えることはありません。知識が効果的に積み重なるように工夫して、指導が行われるのは当然のことです。
同時に、小学校から大学で、あるいは生涯を通じて英語を学び、使いながら生きていくであろうの生徒たちにとって、「どうして今、英語を学んでいるのか」「今学んでいることが将来どのように役立つのか」「英語ができる自分とできない自分では、どのように人生が異なる可能性があるのか」といった、何らかの将来的なビジョンを描く機会を与えることも、教員の重要な使命であると思います。
これは、まず現在形、次に過去形、そして未来形を教えればよいといった、予定しやすい指導ではありません。なぜなら、21世紀の子どもたちにとって将来の英語活動は、教員が経験していないものになるからです。これからの日本人の英語活動がこれまでと異なるものであるならば、そのための学習に使われる教材も機器も、学習環境も求められる成果も異なるでしょう。英語との付き合いは、子どもたちにとってだけでなく、指導する教員にとっても、常に新しい経験であると言えます。
人は知らないことに対しては臆病になりがちですが、子どもたちと一緒に新しい経験を楽しみながら、英語指導と向き合っていくことができれば、教員もまた生き生きと輝くことができると信じています。