セメスター制の大学で継続的な指導をどう実現する?
新年の大学の授業は、なんとも区切りの悪いものです。「明けましておめでとう。今年もどうぞよろしく」とは言ったものの、授業は1回か2回を残すのみで、試験を終えるとほとんどの学生には4月まで会いません。学生は夏休み以上に長い春休みに突入し、その間の英語との付き合い方は学生次第。積極的に英語活動をする者もいれば、残念ながら、晴れて英語の授業から解放されたからには、できる限り英語との付き合いを避けようとする者もいます。
セメスター制が導入されて、授業が半年で完結するようになってからは、長期休暇には宿題さえも出しにくく、学生の指導は難しい状態です。夏休みと春休みにも学生の英語学習をサポートする方法はないものか――と悩み続けた私は、小手先の対策とは承知しながら、長期休暇中のメールによる指導を試みてきました。夏休みには、8月と9月に1度ずつ、英語で近況報告を寄せてもらいます。これには必ず返信するので、どの学生も少なくとも2回、英語を読み書きすることになります。春休みにも、希望者がいれば必ず対応するのでやってごらんなさいと奨励します。
春休み中にこれを実践する学生の数は決して多くありませんが、例えば100名を超える講義科目を履修した学生の一部が、竹下に英語でメールを書くと指導を受けられるらしいと聞きつけ、「覚えていらっしゃるでしょうか、〇〇の授業を履修していた者ですが……」といったメールを送ってくれることもあります(もちろん原文は英語)。
そもそも大学という場所では、小中高とは異なり、学生と教員の関係はさほど密ではなく、どの学生にも目が行き届く環境が確保されているわけではありません。だから学生に対して常に、「教員はいい意味で利用しなさい」と伝えています。自分からアプローチしなければ得られるものは少ないけれど、積極的に関われば、教員から引き出せるものは多いのだと。そこで、私が覚えていてもいなくても、私にメールで指導を求める学生のことは褒めて親切に対応します。
新しい挑戦をモチベートするには? 指導者に本当に必要なこと
さて、話がそれたので戻りますが、夏休みや春休みといった、自分で時間をマネージでき、やるべきこと・やりたいことを自由に決められる期間に、学生がさらに発展的に学習できる機会の提供や方法の助言ができればよいのに、と思い続けてきました。「TOEICの勉強をしたいが、問題集はどれがよいだろうか?」「英会話学校に通いたいが、どの学校がよいだろうか?」といった相談はずっと受けていて、それなりの助言をしてきましたが、同時に、こういうことではなくてもっと何かあるはずだ、との思いを拭えずにいたのも事実です。
そんなある時、夏休み中にバンコクで開催される学会に一緒に行ってみないかと授業で誘いかけ、数名の1年生が手を挙げたことがありました。私が学会で発表している間、学生はチュラロンコーン大学の学生との交流を楽しみました。学生たちは、「タイで英語を使った!」という驚きと感激が入り交じった感情を抱いて帰国。その後の学習意欲と英語への取り組み方には、机上の学びからは得られなかったであろう積極的で実践的なものが見られました。こういった経験が学習者に自信や高い動機を与え、次のステップへの前進に大きく貢献することに間違いがないと確信したのです。
ところで、ドーバー海峡を泳いで渡ることを目指すスイマーは、どのように準備をすればいいでしょうか。過去の実践者の記録を読み、成功例と失敗例から学ぶでしょうか。それはやらないよりもやったほうがいいでしょう。ジムやプールに通って体を鍛え、必要な栄養を摂取するでしょうか。それもやったほうがいいでしょう。それから、海に入り、遠泳の練習をするでしょうか。いきなりドーバーを目指すのではなくて、地元の穏やかな海から始め、距離を伸ばしながら低温の海水に慣れ、夜を徹した泳ぎに耐える根性を養っていくでしょう。それももちろん、必要なステップですね。
新しいことに挑戦するスイマーは、本を読んだだけで目標が達成できるわけではなく、その基礎知識に基づいて行動し、完成度を高める努力をしながら、最終目標に向かうでしょう。また、自分だけの力で達成するのではなく、仲間、トレーナー、コーチ、栄養士、医師、カウンセラーなど、たくさんの人の力を借りるかもしれません。
私たちが指導する生徒や学生たちも同じです。私たちは、トレーナーやコーチとして、彼らを叱咤激励しながらドーバー海峡へと送る任務を負っています。代わりに泳いであげることはできません。自分がドーバー海峡を泳ぎ切った経験がなければ指導者になれないわけでもありません。仮に泳いで渡った経験があったとしても、経験者すなわち優れた指導者ではないでしょう。自分のやってきた範囲内でしか指導ができないのなら、新しい時代に、新しい挑戦を試みる若者たちの手伝いはできません。教師も生徒・学生と共に、新しい挑戦のための方法を考えればよいのです。