校内の機器更新が切り替えのチャンスになる
──彦根市では文部科学省の通知に先駆けてFAXを廃止していらっしゃいますが、同省の通知についてはどのようにとらえていらっしゃいますか。
大西:本市だけがペーパーレス化を進めているというよりも、国の方針として打ち出されているほうが、学校にも、外部の方々にも理解を得やすいと考えています。
宮川:FAXに限らず「ペーパーレス化」というのは、DXのひとつのキーワードだと思います。「FAXを紙として排出する」ことは手間の部分だけでなく、セキュリティや情報管理の部分でもできるだけなくしていきたいという意識は、現場の先生方にも浸透しつつあるように感じています。
──今回、彦根市ではアクティブラーニング教室の整備と同時期にFAXを廃止したと伺っています。なぜこのタイミングだったのでしょうか。
大西:本市の場合は、もともとコンピュータ教室の更新が2023年に決まっており、2022年から段階的にアクティブラーニング教室の整備を進めていました。同時に職員室で使っていたプリンターも更新対象だったため、新しい機器を検討していたところ、更新対象でない複合機についても「10年以上経過していて故障が多いが、機器を更新する予算がない」という相談を受けました。
そこで、これまでの古い複合機とプリンターを統合した新しい複合機にして、小中学校のアクティブラーニング教室整備の予算内で収める検討を行いました。さらに「複合機とプリンターを統合するのであれば、あわせてFAXも一緒に統合しよう」という流れで、一気にFAX廃止へと進めていった経緯があります。
また、費用の面だけでなく、老朽化によるメンテナンス負荷の増加という課題解決のために、機器の更新をするという目的もありました。
──新しいデジタル機器等を導入する際、学校からは戸惑いの声も聞こえることもあるかと思いますが、どのように対応していらっしゃいますか。
宮川:学校に対しては、従来の紙ベースのものをデジタル化することによって教職員にどのようなメリットがあるのかを理解してもらえるよう、全体の指導研修だけでなく、より細かな学校単位での対応を行っています。
大西:デジタル機器の導入には抵抗感のある人もいますが、生成AIをはじめ、日々新しいツールが生まれている変化の激しい世の中に対応していくためには、情報リテラシーの向上は急務であると考えています。彦根市では、ICT支援員との連携等による各学校でのDXの進捗状況の確認や、具体的な操作も交えての研修、サポート体制などを今後強化していく予定です。
スムーズな移行の秘訣は事前の連絡体制の構築
──彦根市において、スムーズにFAXを廃止できた理由についてはどのように考えていらっしゃいますか。
大西:本市ではFAXを廃止する以前から、教育委員会のグループウェアや校務支援システムなどで、学校と教育委員会との連絡体制が構築されていたことが大きかったと思います。これまでメインの連絡手段がFAXのみでだったのであれば、いきなり廃止するのはおそらく難しかったでしょう。
ある程度、FAX以外の手段が構築されていた下地があったため、送信側としてはFAXをメールに切り替えるだけで済み、スムーズな移行ができたと考えています。
──最初にお話のあった費用の軽減、教職員の方々の管理面の負担軽減といったメリットも大きいですね。
大西:そうですね。機器を1台にまとめたことで学校の電気代も削減できています。以前は複数台の機器を稼働させた際にブレーカーが落ちるといったトラブルもあったのですが、それもなくなりました。
北川:教職員にとっても、トラブル対応や管理の負担が減少したことで、子どもたちのために時間を使うことができます。そうした改善が、心理的な負担軽減にもつながっていると思います。
──ありがとうございました。
さいごに
彦根市教育委員会ではFAX廃止により、教職員の負担軽減と業務効率化を実現させた。加えて、職員室のスペース有効活用や、緊急時の一斉連絡の迅速化など、多岐にわたる効果が得られている。今後のFAX業務廃止やDX化を進めるうえで、ぜひ参考にしてほしい。