さまざまなステークホルダーと連携し、導入時の課題を克服
だがroom-Kの導入にあたっては、いずれの自治体も一筋縄ではいかなかったようだ。入間市の小椋氏は「保護者向けに説明会を開催したが関心を引くことができず、校長会議でも説明したものの、浸透には時間がかかった。半年を経過したころから徐々に保護者からの問い合わせが増え、認知されるようになった」と振り返る。また「オンライン支援に偏るのではないか」と懸念する声もあったが、認知されるにつれ、生徒指導提要の改定などもあり、「多様な学びの場」の必要性が理解・浸透されるようになった。現在はスクールソーシャルワーカーとの連携も進み、リアルとオンラインが密接に連携しつつあるという。
一方、春日井市では、まず各学校で「見立て」を行ったのち、各学校の管理職や登校支援室コーディネーターの教員と連携し、教員にroom-Kについて説明。当初は申し込みが少なく心配したが、周知を図る中で保護者からの問い合わせが増加していった。ただし、あくまで学校の見立てを重視し、先生による声かけによって支援につながる子どもが増えてきたとしている。
なお、両市とも導入から1~2年ほどだが、少しずつ効果を感じているという。小椋氏は「room-Kに来るようになってから人と話すことに自信が持てるようになり、学校へ行くきっかけとなったケースを聞いている。オンラインがリアルの支援につなげるステップのひとつになることが理解でき、大きな収穫となった」と語る。
カタリバで支援に携わる阿久津氏も「子どもたちはいい意味で私たちの予想を裏切ってくる」と評し、「1人では見立ても把握もなかなかできない。room-Kを通じて自治体や支援者が連携し、情報交換を通じてアセスメントを深めることで、支援者自身が孤独にならず、子どもたちの成長を促していけるのでは」と語った。
仲野氏は「まずはつながってもらえないと意味がない。従来は学校の先生の努力に依存していたが、オンライン支援の導入により可能性が広がった。いまや先生方の、子どもたちへ支援の手を伸ばす新たな手段として機能している」と、room-Kについて評価。そのうえで「支援がつながっても継続的なサポートは必要であり、学校復帰がすべてではないという認識が大切。最終的には、子どもたちが社会で生きるための社会性を身につけることが目標であり、次のステップにどうつなげていくかを意識しながら、支援の充実を図っていく」と、言葉に力を込めた。
ただ導入するだけではいけない──活用の今後
活用の今後について、小椋氏は「room-Kを通じて学校と教育委員会が連携できるシステムができたので、誰が担当になっても支援が継続できるように、持続可能な支援体制を作っていきたい」と語る。加えて、カタリバとのやり取りを通じて「人の重要性」を実感したという。「オンライン会議で初めて顔を合わせ、考えを聞く中で支援への思いを知って理解が深まり、つながりが強化されたと感じる。子どもも同じように『同級生とつながっていたい』という気持ちが、学校に戻っていくひとつのきっかけになるのではないか」と語った。
仲野氏も小椋氏の考えに同意したうえで、「メタバースはあくまでオンライン上の場所として機能するもので、実際にはさまざまな人が関わり支援をする。だからこそ『空間を用意して終わり』としてはいけないし、そうした意図を発信していく必要がある」と述べた。