[※]出典:文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
夜間中学を活用した不登校支援の可能性
2001年に設立し、自治体と連携した教育支援センターの運営やオンライン不登校支援、学校内における不登校生徒への別室学習支援などに取り組む、認定NPO法人カタリバ。2022年からは、夜間中学の設置促進・充実事業による不登校生徒の支援を手がけている。そのきっかけは、カタリバが運営する不登校児童生徒のための居場所施設に通う1人の生徒だったという。
事業を担当するカタリバの渡邊雄大氏は「その生徒は、もともと小中学校と不登校期間が長く、経験不足による困りごとも多かった。しかし、東京都内の夜間中学に入学してからは毎日登校するようになり、現在は生徒会長を任され、高校受験を目指してがんばっている。彼の成長を目の当たりにしたことが、夜間中学に着目するきっかけとなった」と経緯を語る。(※当該生徒は記事後半のトークセッションに登場)
夜間中学の設置促進・充実事業は文部科学省の委託によるものであり、カタリバは2022~2023年度に東京都内の夜間中学において、民間のコーディネーターおよび生徒のサポーターとして参画した。現在は千葉県松戸市の夜間中学で、教育支援センターと連携した支援のあり方を模索している。
夜間中学はもともと、戦後の混乱期に日中の就学が難しかった子どもたちのために開設された。現在は教育機会確保法の制定によって、不登校の学齢生徒も希望があれば通えるが、そうした事例はこれまで少なかった。実際、夜間中学の利用者の多くは学齢超過者であり、その内訳は義務教育未修了者が約10.1%、外国籍の人が66.7%、形式卒業者(中学校に在籍はしていたものの、不登校などにより義務教育課程を学べなかった人)が23.2%となっている。
夜間中学のメリットは、年齢層が多様であることから温かなコミュニティが形成されやすく、少人数制できめ細やかな対応が実現する点だ。また、文化祭や運動会、修学旅行などの行事も実施され、経験作りの意味でも生徒の成長や自信の回復に貢献するという。なお、教育振興基本計画ですべての都道府県に少なくとも1つの夜間中学の設置促進が行われたことにより、2023年度には学校数が53校まで増加したが、生徒数については学校数の増加率に比べて伸び悩んでいる。
先述の通り、近年は小中学校における不登校児童生徒数が増加の一途をたどっている。とりわけ小学生は5年で約2.3倍、中学3年生で1.6倍にも増えており、「将来にわたって社会参加や自立が困難になる」「進路の選択肢に制約がかかる」といった問題が懸念される。こうした状況にもかかわらず、学校以外での支援を受けられていない児童生徒が40%近く存在し、さらに教育支援センターを利用する児童生徒も減少傾向にある。不登校から立ち直るきっかけが失われている可能性があるというわけだ。
つまり「不登校児童生徒の増加」「形式卒業者の増加」「支援を受けていない児童生徒の増加」といった問題がある一方で、「夜間中学の生徒数は減少している」というのが現状だが、そこから「夜間中学を活用した新たな支援策」の可能性が見えてくる。それは、不登校生徒の通学・進級支援と、形式卒業者の「学び直し」の場としての支援だ。教育機会確保法の整備により、不登校生徒や不登校経験者に対する教育機会を提供する存在として「夜間中学」の役割は拡充されている。一度中学校を卒業した人の再入学、夜間中学を併設する「学びの多様化学校」への入学、そして在籍校に籍を残したままでの夜間中学への通級も可能だ。