[※]出典:文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
【島根県雲南市】「おんせんキャンパス」を中心に支援者・関係者が連携
島根県の東部に位置し、平成16年に6町村の合併によって生まれた雲南市。人口は約3万4000人で少子高齢化が進む中、小学校15校・中学校6校に、約2500人の児童生徒が通学している(令和6年度時点)。同市は「学校に通うことに困難を抱えている児童生徒へ、安心できる居場所とさまざまな学びの機会を届け、自信と将来の希望につなげたい」との想いから、雲南市教育委員会とカタリバの協働により、2015年に雲南市教育支援センター、通称「おんせんキャンパス」を設立。さまざまな活動を行っている。
きめ細やかな支援が特色であり、学校の教員と電話やメールで日常的に連絡を取り合い、子どもの様子を週に一度のレポート等で報告し、定期的な情報交換会なども実施している。教員と子どもがコミュニケーションをとれるように橋渡しを行うなど、組織や仕組みの枠を超えて、子どもや保護者が必要としていること、困っていることなどをヒアリングし、関係機関への伴走を通して支援の輪を広げてきたという。
こうした支援に「子どもの様子が手に取るようにわかる」「子どものためにならと、フットワーク軽く活動していることに驚いた」と、現場の教員からの評価も高く、保護者からは「それぞれの子どもに合わせて対応してくれる。親としては心穏やかでいられる」という言葉が聞かれるなど、地道な活動が信頼を獲得していることが伺える。
スタッフの石飛紫明氏によると、おんせんキャンパスは事業目的に「児童生徒の社会的自立」を掲げ、子どもにとって安心な環境で自身の醸成を図り、学び・成長機会の充実を経て、社会的な自立を目指しているという。あわせて「雲南市の教育環境の発展に資すること」も重視しており、不登校・不登校傾向の子どもへの支援から、さらには市全体の子どもの学びの個別最適化、自立化の実現へと広げている。
同市の「ハブ型教育支援センター」としての基本的な考えにのっとり、子どもを中心としつつ、子どもだけへのアプローチだけでなく、保護者や学校との関わりまで含めて、バランスよく支援することを重視している。また、おんせんキャンパスに来る子どもたちだけではなく、訪問支援によって「つながり」に行き、子どもたちに伴走するという「アウトリーチ」手法を貫いているところも大きな特徴と言えるだろう。
現在の支援内容は、一人ひとりの状況に合わせて大きく3つの段階を意識したものになっている。まず、環境整備や発達特性への配慮など、背景理解と個別対応により、安心・安全な場を提供し、興味関心・強みに応じたプログラムによって、自信につながる機会を提供する。そして「やってみたい」という気持ちに伴走し、さまざまな価値観との出会いやチャレンジにつながる機会を提供する。さらに、そのカギとなるコミュニケーションの質と量の充実を図るため、「個別活動」「小グループ活動(2~3人との関わり)」「グループ活動(4人以上との関わり)」の場面を提供するなどし、状況に合わせた支援を展開している。
![おんせんキャンパスの基本的な考え方](http://et-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/11887/11887_001.jpg)
現在、おんせんキャンパスは業務委託スタッフを含めて12名で運営し、雲南市教育委員会キャリア教育政策課や学校教育課、市長部局となる子ども政策局や健康福祉部、雲南市ひきこもりネットワークなど、たくさんの機関と連携しながら活動している。利用者は年々増加傾向にある中、学校への再登校ができた子どもの割合は平均7割程度に上る。
![おんせんキャンパスの利用者数](http://et-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/11887/11887_002.jpg)
おんせんキャンパスの主な取り組みは大きく5つに分けられる。具体的には、(1)施設内で行う「おんせんキャンパス事業」、(2)家庭訪問などの「アウトリーチ事業」、(3)中学校卒業後の子どもたちへ支援を行う「ユースサポート事業」、(4)家族や保護者を対象とした「家族サポート事業」、(5)学校に不登校相談員としてスタッフを派遣する「ユースワーカー派遣事業」を展開している。
中でも特徴的な事業として「家族サポート事業」の中から、保護者面談と保護者会、個別相談会が紹介された。不登校は子どもだけでなく家族も同様に困っていることが多く、支援とつなげる必要がある。具体的には、市内の相談機関が協力し開催される説明会や、医師や臨床心理士といった専門家による講座、保護者同士が体験談を語り合う場づくり、発達支援センターの監修による保護者向け「ペアレントトレーニング」など、多種多様な取り組みが展開されている。そして「アウトリーチ事業」では、家庭や学校への訪問支援、専門機関などへ相談する際の伴走といったアプローチも実施されている。