高校における教科「情報」の現状
──永野先生には、2022年11月に開催されたEdTechZineのオンラインセミナーにて、「高校の情報教育が目指す姿とは? 教育委員会・学校はいかに対応すべきか」というテーマで講演をしていただきました。当時は高校で「情報Ⅰ」が必履修科目になり、大学入学共通テストにも採用されるということで大きな話題になりましたが、あれから1年半が経った現在、学校現場の状況はどのように変わったと感じていますか。
永野氏(以下敬称略):セミナーが開催された2022年時点での独自調査では、「プログラミングの経験がない」という「情報」の先生が4割ほどいらっしゃいましたが、現在は「情報Ⅰ」の授業が始まったこともあり、プログラミング経験のない先生は格段に減りました。[※1]
ただ、いよいよ2025年度から共通テストで「情報Ⅰ」が始まるので、昨年度あたりから高校の現場では「どのように入試に対応していけばよいのか」といった不安が強くなっているように感じます。
──では、以前課題として挙がっていた「情報」の教員不足は解消されつつあるのでしょうか。
永野:「情報Ⅰ」の教員不足は解消してきているように見えますが、実は潜在的に不足している学校は多く存在します。1人で担当できる時間数は「情報I」のみが限界で、「情報II」を開講できない場合などです。また、みんなのコードが行ったプログラミング教育 実態調査報告書2022 「高校教員の意識調査 単純集計結果」では、全国で約8割の先生がほかの教科と「情報」を兼任していると回答しました。[※2]そうなると教材研究も2教科分行う必要があり、当然教員の負担も大きくなります。
稲垣氏(以下敬称略): 私自身、高校では情報科教員として勤務していましたが、理科も兼任していた時期がありました。「情報」の専門性を高めたいと思っても、他教科をあわせて研究しなくてはならず、大きなジレンマを抱えていました。
また、1校に1人しか「情報」の教員がいない学校も多く、先生は不安を感じているのではないでしょうか。そうした中、自分の授業を改善したいという気持ちで、学校外の勉強会やセミナーに参加する先生もいます。一方で、どうすればよいのかわからず1人で抱え込み、例えばアプリケーションについてただ説明するだけの独りよがりな授業をしてしまう先生がいるのも事実です。そうした「情報」の授業しか知らない生徒が生まれてしまうという悲惨な状況になりかねません。
「情報Ⅰ」が共通テストに採用され、学校で「情報」の授業の質を底上げしなければならない状況になったことを、ある種の劇薬だとする意見もあります。しかし私は、それでも情報教育にきちんと向き合うよいきっかけになったと思います。自治体も積極的に教員採用を行うようになり、例えば情報教育に注力している福島県では、ここ数年で情報科教員の新規採用数が増加しています。