ICT活用の価値基準を、学校全体で考えることから始めよう
為田裕行氏は、教育コンサルタントとして自治体や教育委員会のアドバイザーを務めるほか、全国の学校におけるICT活用の授業を紹介する教育メディア「教育ICTリサーチ」を主宰し、さらにプログラミング教材のインストラクターとしてカリキュラムを考案するなど、幅広く教育現場に携わってきた。今回のセミナーでは、2022年3月に出版した『学校のデジタル化は何のため? 教育ICT利活用の目的9類型』(さくら社)をもとに、改めて学校でICT活用を進める重要性が解説された。
セミナーの冒頭、為田氏は「ICTは、先生の得意・不得意がとても見えやすい。ICTを導入することで、学校におけるすべての問題が解決するわけではない。メリットも多い反面、変わらないことやデメリットもある」とした上で、「学校は新しいものを導入する際、総合的な評価をして、メリットがデメリットを上回れば導入を行ってきた。ICTも同様で、学校全体でICTを使えるようになることや、子どもたち全員がICTを使っていくことについて、どのような意義があるのかを伝えていきたい」と語った。そのためには「1人1台の端末をどうに使うべきなのかという価値基準を、先生方がみんなでつくっていくことが大事」であるという。
デジタルでアナログの授業をパワーアップさせる
GIGAスクール構想の開始以降、全国の学校現場おけるICT活用の事例は爆発的に増えた。「デジタル導入・活用により課題が改善された事例は、探せばいくらでもある。書籍も多く出版されており、さらに文部科学省の資料や、各自治体の教育委員会でも多くの事例が紹介されているので、どんどん参考にしてほしい」と為田氏は述べ、その中でも同氏が着目した事例を紹介した。
1つ目が、為田氏がアフタースクールの講師を担当する、東京の淑徳小学校の事例だ。例えば「図書室で、1年間で何冊の本が借りられるか」という問いをみんなで考える課題では、授業支援ツール「schoolTakt(スクールタクト)」を使い、それぞれの考えをまとめて、全員で共有した。「式を書く子、グラフで考える子など、考え方はそれぞれ。こうしたいろいろな考え方を、みんなで見せ合えることは、大きな価値のひとつ」と、為田氏はICT活用のメリットを解説した。
そして「学校によって使うツールは違っても、その本質に変わりはない。こうした授業支援ツールを使ったことで、単純に『プリントの印刷や配布・回収が楽になった』くらいで終わっていては、GIGAスクールによって整備された端末を活かせていない」と為田氏は指摘する。
これまでの授業では、児童生徒全員が書いた内容を互いに見せ合ったり、挙手した全員が発表したりすることは難しかった。しかしデジタルツールの活用により、手を挙げづらいと感じる児童生徒の意見が人目に触れるきっかけになったり、書くことが苦手な児童生徒が友だちの意見を参照しつつ、自らの学びを進めたりすることができるようになっている。
「今まで先生方がアナログの授業でずっと大事につくり上げてきたことを、デジタルによってさらにパワーアップさせ、子どもたちに提供することができるよい機会だと思う」(為田氏)
そのほか、高校での実践として筑波大学附属駒場高等学校を紹介し、「デジタルが入ることによって、これまでと大きく変わった」事例として「作文」を挙げた。「誰かに何かを伝えたい際に、わかりやすく表現するためにはどうすればよいのか、何回も試行錯誤してほしい。アナログよりもデジタルのほうが書き直しやすく、結果としてアウトプットの回数が増えたり質が上がったりしていくのであれば、デジタルを活用していきたい」と為田氏は述べる。
さらに、静岡県立掛川西高校で行われた、英語で書かれた説明文をプレゼンテーションしていくという、ユニークな世界史の授業も紹介された。「Google翻訳を活用することで、一見英語の勉強が必要ないようにも見えるが、実際に使ってみると英訳が不十分で、改めて英語力の必要性を感じられた」というエピソードを伝えた。
「コンピューターはまだ翻訳が完璧でないと経験すること自体が、テクノロジーをうまく使いこなすことにつながっていく。これらの事例ではデジタルとアナログのどちらかだけを使うのではなく、状況に応じた使い分けができている」(為田氏)