ICT活用で、教育界のノーベル賞「Global Teacher Prize 2020」のファイナリストに
――岩本先生は、2020年に教育界のノーベル賞と言われる「Global Teacher Prize 2020」でファイナリストのTop50に選ばれたほか、「ICT夢コンテスト」や「東京新聞教育賞」など、多数受賞していらっしゃいますね。
ありがとうございます。プログラミングツール「Viscuit(ビスケット)」で音楽に合わせて動く絵を描き、プロジェクションマッピングとして発表した授業をはじめ、ARを使った展覧会、プログラミング関係の展示など、これまでのさまざまな活動を評価していただけたと思っています。
――岩本先生は今年、教員12年目とのことですが、現在の勤務校である新宿区立富久小学校のICT整備状況はいかがでしょうか。
新宿区立の小中学校は、もともと各校に40台の「Surface」が配備されていましたが、GIGAスクール構想によって、2021年度から1人1台の「Surface Go 2」が配られ、5月の連休明けからようやく活用が始まったところです。
――本格的な活用はこれからだと思いますが、1人1台によって実現できそうなことは何でしょうか。
以前より私が担当する図工の授業では、ICTは使いたいときに活用していました。子どもたちがもっと慣れてきたら、図工のふり返りや自分の作品紹介をつくってお互いに見せ合うといったことも、1人1台であれば気軽にできると思います。また、今年の展覧会では1人1台を生かして、1人ずつポスターをつくってもらいたいと考えています。
アナログとのバランスを考えた図工×ICTの授業
――最初にプロジェクションマッピングやプログラミングのお話がありましたが、小学校の図工はどちらかと言うとアナログのイメージです。ICTをどのように取り入れていらっしゃるのでしょうか。
前任校である三鷹市立の小学校での例になりますが、6年生の図工の授業で、ピアニストの方に実際に曲を演奏していただき、生の演奏を聴きながらそのイメージをビスケットで動く絵にするという活動を行いました。
と言っても、いきなり動く絵を描くのは難しいため、その前段階としてまず5年生で生演奏を耳で感じたり、抽象画を即興で曲にしてもらったりして、ピアニストの方とふれあう活動をしました。そうやってイメージをふくませたあと、今までのアナログの画材を使って絵を描きました。
5年生での活動を踏まえ、1年後の6年生ではICTを活用して動きを取り入れた作品をつくりました。子どもたちがタブレットで描いている間、ピアニストの方には繰り返し曲を演奏してもらいました。
――ほかでは見ないとてもユニークな授業ですね。デジタルだけではなくアナログの素材をとても上手に組み合わせている印象を受けました。ICTを活用する上で、こうした組み合わせは大事でしょうか。
最近の漫画家さんやイラストレーターさんはパソコンで描く方が多いですが、やはり絵の具の質感や、紙で組み合わせて自分の手で感じながらつくりあげることは、クリエイティブな活動をしていくための素地となります。そういった体験も生かしつつ、最終的には子どもたちがICTとアナログを自由に組み合わせてものづくりができればいいと思っています。そのため、バランスを考えながらICTを取り入れるようにしています。
――ほかにもICTを組み合わせた活動や事例があれば、ぜひ教えてください。
先ほどのピアノ演奏を聴きながらつくった作品は、実際のピアノの演奏に合わせて壁面に大きく投影する形で発表を行いました。ICTを活用したからこそ、このような表現ができたと思っています。
2年生の「スイミーが見たセカイ」は、国語の授業で「スイミー」に触れるタイミングに合わせ、スイミーが見た世界を想像しビスケットで動く絵を描きました。作品は特別教室の天井や壁に白い不織布を張って投影し、水族館のようにしてみました。
――これは、とても楽しそうですね!
下校前に鑑賞したのですが、子どもたちが帰らないんです(笑)。「水族館は閉館しましたよ」と言っても、みんな夢中でした。ICTの良い点は、自分たちの作品をダイナミックにアウトプットできるところだと思います。
――これらのプロジェクションマッピングは、岩本先生がつくっているのでしょうか。
はい。と言っても、子どもたちの作品は動画としてできあがっているので、あとは「PowerPoint」で映像をつなげて編集しています。公立小学校では予算も限られているため、基本的に追加料金がかからないソフトのみを使っています。工夫次第でいろいろな活動ができるんですよ。