世界各国で増大するコンピューティング教育の必要性
"本質"を理解した学習の体系化が大きな課題に
ITによる社会変革が進む中、将来を担う子どもたちへのプログラミング教育についての議論や試行錯誤は、日本でも活発に行われてきた。さらに3月公示の新しい学習指導要領には、2020年より小学校におけるプログラミング教育必修化が開始されることが盛り込まれ、すべての子どもがプログラミング教育を受けることが必須となっている。とはいえ、わずか3年で具体的にどのような授業として組み上げるのか、現場では前向きな議論とともに不安の声も上がっていると言う。
サルシト氏の講演に先駆けて登壇した文部科学省生涯学習政策局 生涯学習総括官の佐藤亜紀氏は「今後、すべての関係者がプログラミング教育の本質を理解し、授業や教材などを含めた学習の体系化を図る必要がある。そんな我が国にとって、すでに教育を開始した英国で学習の体系化を牽引した民間団体CAS(Computing At School)の強力な支援者である米Microsoftのサルシト氏の示唆は得がたいものとなるだろう。既存概念をおいてぜひ話をきいていただきたい」と語った。
サルシト氏はMicrosoftの教育部門の幹部として「優れた教育ツールを開発し、最終的にあらゆる教育者をエンパワ―する」という目的のもと、さまざまな団体・企業との連携を行い、年間で30~40か国を訪問しながら、コンピューティング教育の在り方について意見を聞き、議論を行ってきた人物だ。各国ともコンピューティング教育を必要とする人が爆発的に増えており、そのニーズに「どうやって応えるか」が大きな課題となっていると痛感したと言う。むろん日本もその一つだ。
サルシト氏によると、コンピューティング教育の導入は段階を経て進むと言う。意欲的な先駆者が"クレイジー"と言われながら実験的に導入する第一段階、そして国などによる目標設定のもと、IT技術を教室に取り込む努力が進められるのが第二段階。しかし、日本を含め多くの国では「デバイスを導入する」「プログラミングを学習させる」という"技術による技術の修得"に陥ることとなる。その反省を踏まえ、"技術を用いて結果を出す"という「コンピューティング教育の本質」を見極めた学習の体系化が第三段階として進みつつある。しかし、ツールの選定基準もあいまいでサポートも十分ではない中で、教育者個人の資質や負担への懸念も少なくない。そこで、Microsoftはそこに何らかの解決策を提供すること。それを課題感として持ち続けてきたと言う。
そして、第三段階で目指した教育システムが完成する第四段階こそ、目指すべきコンピューティング教育の究極の形だと言う。つまり、教育を受けた子どもたちのポテンシャルが教室の内外で発揮されること。それが社会をよりよいものへと変革していくことにつながって初めて教育が意味をなすというわけだ。