アントレプレナーシップの概念
アントレプレナーシップという言葉を聞いたことがあるでしょうか? 始まりとなったアメリカ、そして私の住むフィンランドはもちろん、昨今ヨーロッパ全体で注目度が上がっている、21世紀の子どもたちに必要となる力のひとつです。フィンランドではNational Core Curriculum(国の決めた学習指導要領)で注力すべき7つのTransversal Competenceの中のひとつとして位置づけられ(注:前回記事)、盛んに取り組みが行われています。
とはいえ、なかなかイメージのつかないアントレプレナーシップ。それはいったい何なのか。今回の記事では、概念から具体的な取り組みに至るまで、解像度を少しずつ高めながら解説していきたいと思います。
アントレプレナーシップが着目されるようになった背景
技術の進歩や経済のグローバル化の推進などの結果として、働く環境、職業、仕事の性質が変化しています。仕事の要件(必要なスキルや特性、資格など)を予測することは以前よりも困難です。そのため、学校教育では、仕事とワーキングライフへの関心と前向きな姿勢を促進する一般的な能力を磨かなくてはなりません。そこに登場したのが、アントレプレナーシップです。
このアントレプレナーシップ、日本でも一時期注目された言葉なので、聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。直訳すると、起業家精神。広義では、自分ならではのアイデアを形にする力。狭義では、ビジネスを興すための力とされます。文字面から日本では、起業やビジネスに関連付けて捉えている方が多い印象ですが、実は先ほども述べたように、仕事や生活に関する前向きな姿勢を育むための「誰にでも関係する」概念です。
フィンランドでのアントレプレナーシップの扱い
フィンランドの教育シーンでは、このアントレプレナーシップがどのように扱われているのでしょうか。フィンランドでこの言葉が登場するのは、National Core Curriculum for Basic Education(小中学校向けの学習指導要領)です(参考:前回記事)。国が注力する7つのテーマ「Transversal Competence」があり、そのひとつに「ワークライフスキルとアントレプレナーシップ(働く力と起業家精神)」という項目が含まれています。ここでは、アントレプレナーシップを広義の意味合いで捉え、仕事や社会で仲間と協働する力や、アイデアを形にする重要性を説明しています。
育む力から、アントレプレナーシップを考察
さて概念的な説明をしてきたものの、まだまだピンとこない方も多いと思います。そこで、少し角度を変えて、アントレプレナーシップにおいて育む「力」に焦点を合わせて説明します。2016年のEU Commissionが定義している図が分かりやすいので、こちらを引用します。
アントレプレナーシップに3つのステップ
上記の図では、広義のアントレプレナーシップ(アイデアを形にする力を身に着ける)実現に必要なのは、3つのステップだと紹介しています。まずはアイデアや機会を生み出す(Ideas & opportunities)。次に、そのアイデアや機会を自分の持っているリソースと結びつけること(Resources)。そして最後に、具体的な行動に移すこと(Into action)。そして、この3つのステップを踏むために必要な力が以下に説明するコンピテンシーです。
各ステップを支える5つのコンピテンシー
それぞれのステップの配下に、5つのコンピテンシーがあります。例えば、「アイデアや機会を生み出す」の配下には、「クリエイティビティを磨く」「ビジョンを描く」「機会をつかみとる」「アイデアを評価する」「エシカル・サステナブルな思考」が並んでいます。この力を身に付けることで、アイデアや機会を生み出すステップが踏めるようになるという考え方です。ひとつずつ分解して紹介されているため、とても分かりやすいです。