オンラインの学びに対して、ネガティブな状態にしないこと
――奥津先生が新渡戸文化中学校・高等学校で取り組んでいることについて教えてください。
新渡戸文化小中学校・高等学校(以下、新渡戸)では「すべての教員がデザイナー」であり、私は「ラーニングテクノロジーデザイナー」と名乗っています。理科教員として生物を中高生に教えているほか、iPadの使い方などをメインに、先生方の支援を行うICT担当も務めています。
また、「SDGs」をキーワードに生徒とリアルをつなげる活動をしており、子どもたちが発信する場を作っています。これは前任校から行っている活動でもありますが、「子どもをベースに『やりたい』を実現させる」ことは新渡戸のマインドでもあるので、学校全体として取り組んでいることのひとつでもあります。
――新渡戸では、休校中も4月上旬からオンライン授業をスタートされたとのことですが、どのように実現していったのでしょうか。
まず、オンライン授業を始めるにあたって、大前提としたのは生徒の安心安全です。学校に来られない中、操作などで不安を感じることなく、かつ安全に学ぶことを大切にしました。
そのため、中学生には当初から予定していた「1人1台」のiPadを配付、高校生は人数が多いこともあり、家庭の機器を使うBYODの準備を進めてもらいました。併せて学習用クラウド「Google Classroom」へのアクセス方法や、オンライン会議ツール「Zoom」の使い方などを説明しました。
最初は「オンラインでつなげられるだけでもすごい」ところからスタートし、その後「Zoomのチャットに何か書き込んでみる」「Google Classroomに用意された課題を確認する」「Google Classroomで写真を提出してみる」といった段階を経て、徐々に生徒がICTのスキルを身に着けられるようにしていきました。
――なるほど。とてもスモールステップで丁寧に進めていったのですね。
スロースタートで、本当にゆっくりと進めていました。4月半ばまでは「何をしたい?」と生徒に聞き、「自分の部屋のものを紹介したい」「新型コロナについて調べたい」などの要望に合わせて、「じゃあ、やってみよう」といったことを続けていました。すると、だんだん生徒が新しい学年の授業を学びたくなってくるのです。さすがに高校3年生は受験があったので、早めにシフトしましたが、それ以外の学年は本人たちから「学びたい」という要望が出るまで待ちました。結果として、学びに対するモチベーションが下がらず、オンライン授業が実現できたのです。
――現在は通常登校になったのでしょうか。
現在(注:取材日である7月下旬時点)は通勤通学ラッシュを避けるため、午前中をオンラインにし、午後から登校する形をとっています。登校するまでにも、段階を踏みました。オンラインでの学びは保証しつつ、1週間ごとに慣らしていく意味で登校日を増やしていきました。
家庭でできることは「子どもを主語」にして待つこと
――現在もオンラインでの対応が多い中、家庭では何を行えば、より良い学びにつなげられると考えていらっしゃいますか。
オンライン学習は先生や周りから見られているプレッシャーが減る分、生徒自身が「やりたい!」と思わない限り、学びは進みません。
よほど強いネガティブな強制力か、本人の「やりたい」というモチベーションのいずれかが必要です。ゴリゴリに強制するのもひとつの方法ではありますが、目指すべきは「やりたい」と思うように働きかけることです。その一番良い方法は、承認してあげることなんです。
「これをやっているだけですばらしい」「あなたたちは、すごい。ちゃんと前に進んでいる」といったことを認めてあげる。そして、ワクワクする、やってみたいような仕掛けを作ることが大切です。
そして、芽生えたモチベーションを伸ばしていく必要があります。家庭で過ごす時間が長くなった場合も、承認されたいという欲求をいかに満たしてあげるか、そこに最も時間をかけるべきだと思っています。
――実際に、保護者の方へはどのように伝えているのでしょうか。
「子どもたちを主語にしてください」とお伝えしています。「学びが進まず、もどかしいかもしれませんが、大丈夫ですよ」と。目指すのは「自律型学習」です。子どもたちが自分で学びのピースを埋めていく。保護者や先生がやってしまうと、後々自分で埋められなくなってしまいます。でも、自分たちでできるようになれば、勝手に進んでいくのです。「スイッチが入ればやりますから、とにかく待ちましょう」とお話ししました。
――とは言え、私立学校に子どもを入学させた保護者としては不安なのでは?
はい、それも理解しています。しかし、待った結果、子どもたちがワクワクすることで生まれてくるものもたくさんあります。本校ではクリエイションを大切にしており、休校中にも多くの生徒がすてきな作品を作り出していました。
そうして芽生えたものや、デジタル教材の回答結果の数値を保護者の方にお見せして、ちゃんと進んでいることをお伝えする。一定の学びのラインは担保していることを見せつつ、面談などでの対話を大切にして、安心していただくようにしています。規模が小さい学校だからこそ、「子どもにどうなってほしいのか。そのための道はどのようなものがあるのか」をしっかりと話し合っています。