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民間の塾ならではの危機感――怒涛の1000本動画配信から始め、双方向授業の実現にこぎつけた「英進館」の取り組み

「コロナ休校への英進館の対応/英進館のAI活用事例」レポート

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2020/07/20 07:00

 3カ月にわたったコロナ禍の休校は、学校だけでなく、全国の学習塾をはじめとした民間の教室にも多大な影響を与えた。「学費の対価」という形で持続的な学びの機会を提供している民間の教室にとって、「対面での学びが行えない」ということは生徒の退塾に即つながり、まさに死活問題である。同時に、受験生を抱える学習塾は「この大切な時期に一瞬たりとも受験生の学びを止められない」という切実な問題を抱えていた。超教育協会が開催する「オンラインセミナー」の6月17日の回では、小学校から大学受験までを担う老舗の学習塾「英進館」の代表取締役社長である筒井俊英氏が登壇し、民間の取り組み事例として3カ月の奮闘を語った。

危機感により動画配信「物量作戦」へ

 英進館は九州7県を中心に展開する進学塾で、小学校から大学までの受験に対応している。創業は1979年と古く、全生徒数は3万人を超える。

 「2月末に突然、全国の学校が一斉休校となった。今思えば正しい選択であったが、当時の塾業界としては『それほど大変なことになっていないのに、なぜ休校なのか』という違和感があった」と英進館の筒井氏は話す。とは言え、学校が休校である以上、塾もそれにならう必要があり、多くの学習塾が3月1日からの休校に踏み切った。

 この時点ではどの塾も、その後3カ月間にもおよぶ長期の休校になるとは予想していなかった。英進館では、3月の休校に対してはほぼ振替授業で対応しつつ、4月から通常の対面授業を再開する予定で進めていた。

 「しかし、4月7日の緊急事態宣言によって、ゴールデンウイーク明けまで対面授業を行えないと知ったときは、正直なところ、とてもショックだった」と、筒井氏は当時の心境を語った。

英進館株式会社 代表取締役社長 筒井俊英氏
英進館株式会社 代表取締役社長 筒井俊英氏

 学校と民間の塾との決定的な違いは、学校は休校になっても児童生徒が退学することはないが、塾は授業を行わないと即退塾につながってしまうということだ。講師の人件費や教室の家賃といった固定費を払う中、休校で授業料が入ってこないとなると、半年ももたず倒産してしまう危機感を多くの学習塾が等しく感じていた。

 英進館も同様で、通常では対面授業を前提としているため、3月の時点ではオンライン授業は考えていなかった。3月はやむなく休校、そしてもう大丈夫だろうと思っていた4月に入っても、まだ授業を再開することができない。当然、保護者からは問い合わせや苦情が殺到する。それらのクレームに対して、「翌週から動画を配信する」と返答し、英進館のオンライン対応がスタートした。

 まず、英進館がとった策は、動画の物量作戦だ。授業のボリュームを圧倒的に増やすことで、動画配信でのデメリットを補う作戦だった。

 「ほとんどの保護者の方は、動画配信に抵抗感を持っている。特に塾については『対面の授業だからお金を払っている』という意識が強く、どんなに良いコンテンツでも動画やオンライン授業は、対面より価値が低いというイメージが強い。まずはこのイメージを払拭することから始めなければならない。」という意識のもと、学年や教科ごとに大量の動画制作と配信をスタート。それが4月の第2週のことだ。

 特に受験学年に注力し、最初は週3回、その後は平日の週5回に配信を行うようにした。

小学5、6年生は毎週1000分という圧倒的な動画の量で、対面授業ができない分を補った。
小学5、6年生は毎週1000分という圧倒的な動画の量で、対面授業ができない分を補った。

 だが、すべてがうまく進められたわけではない。慣れない動画配信作業を行ったため、動画の数が増えると「指数関数的にミスが増加した」と、筒井氏は明かした。「プリントの内容が違っている、違う学年の配信、科目違い、動画が途中で切れているなど、あらゆるミスが発生し、クレームが日々殺到した」という。しかし、ミスに対してのクレームは増えたものの、それ以前にあった「退塾する」「授業料を返してほしい」といったクレームはなくなったのだ。それに代わり、次第に応援や理解のメッセージが増えていった。

 「創業40年になるが、こんなにも短期間の間にトラブルを抱え、たくさんのクレームと同時にたくさんの応援をいただいたことはない。慣れない中で精いっぱいやっていることにご理解いただけるようになった」と、筒井氏は4月からの奮闘をふり返った。

動画授業をサポートする学習予定表

 英進館の工夫はそれだけにはとどまらない。1日中自宅にいること、対面から動画視聴に学びのスタイルが変わったことで、子どもたちの1日のスケジュールもそれに合わせたものに変える必要があった。

 「『動画だからいつでも見られる』と思うと、かえって見なくなる」という問題が発生すると予測して、学習予定表を、オンライン授業カリキュラム専用にゼロから作り直した。どの時間帯にどの動画を見るかだけでなく、1つの動画授業の中で、どのタイミングで問題に取り組み、採点をするかなど、動画視聴時の注意事項や指示などが事細かに盛り込まれた毎日の学習予定表を学年別に提示した。

クラス別に自宅での細かい学習予定表を作成。40分間の授業でも単調にならないように、動画の視聴に加えて、5~10分単位でテストやプリントを行う指示を出した。
クラス別に自宅での細かい学習予定表を作成。40分間の授業でも単調にならないように、動画の視聴に加えて、5~10分単位でテストやプリントを行う指示を出した。

 英進館がこだわった点は、過去の動画を使い回すのではなく、あえてすべて撮り直したことだ。動画自体は講師が撮影し、内容のチェックまで行ったが、編集は外部の業者に出したことで、1週間で1000万円以上の編集費がかかってしまったという。

2週間で1000本近い動画を配信。「校舎が、まるでスタジオのようになった」と筒井氏は話す。
2週間で1000本近い動画を配信。「校舎が、まるでスタジオのようになった」と筒井氏は話す。

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著者プロフィール

  • 相川 いずみ(アイカワ イズミ)

     教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、プログラミング教育やICT教育、中学受験、スマートトイ、育児などの分野を中心に、取材・執筆を行っている。また、渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足し、地域の子ども達に向けたプログラミング体験教室などを開催している。一児の...

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