はじめに
筆者は外資系大手コンサルティング会社に勤務しており、デジタルテクノロジーによる産業構造の創造的破壊を目の当たりにしてきました。本連載では、「教育とビジネス」「先生と親」といった垣根を越え、グローバルな視点からSTEAM教育の本質や幼児教育の在り方について考えていきます。
シリコンバレーのテックイノベーターとは?
MGAFA(Microsoft、Google、Apple、Facebook、Amazon)の台頭により、今までの大企業の見方が変わってきています。何十年も続く日本の大企業が売り上げ、時価総額共にトップを走り続けていたのはもう既に昔のことと考えられています。2000年以降、次々と出てくるイノベーティブな企業がユーザーニーズを捉えて、爆発的な成長を遂げ、時価総額もあっという間に越えてしまったのです(図表1)。また、時価総額で比べると、MGAFA5社だけの総額約462兆円は、日本の上位100社の時価総額約355兆円を、およそ100兆円も上回っています(※出典1)。
これにより、人々の価値観も変わってきています。年功序列で何十年も同じ会社で勤め上げることがお手本とされていた日本の若者たちが、こうしたシリコンバレーで成功を遂げたイノベーターたちに憧れを抱くようになってきているのもまた事実です。
では、こうした企業は何が創造的破壊の源泉となったのでしょうか。日本の大手家電メーカーの商品は、どの家庭にも広く浸透し、長年の改善が蓄積されている高品質な商品です。一方で、物質的に豊かとなり、既に便利になった今、人々はさらなる利便性よりも、新しいものや発想を欲しがっています。
例えば、スペックが高く、高機能な冷蔵庫(単なる生鮮品の貯蓄庫)より、現在冷蔵庫に保管されている食材から、家族構成や生活スタイル、健康状態や生活習慣に基づいた健康改善レシピなどを提案してくれる「献立サービス」としてのニーズを求める傾向にあります。
つまり、人々は「顕在化されたニーズを改善する商品・サービス」よりも、「潜在ニーズを満たしてくれる、新たな切り口の商品・サービス」を求めていると言えるでしょう。こうした「改善」ではない「新たな切り口のサービス」を生み出すことを、大企業の間では近年「イノベーション」と呼び、積極果敢に「チャレンジ」している状況です。しかしながら、残念なことに時価総額ランキングトップ10より、日本の企業はすっかり姿を消してしまったのです。
MGAFAの台頭は、そういった人々のニーズの変化の表れです。時代の変化に伴い、時価評価額が10億ドルを超える、未上場のいわゆるユニコーンと呼ばれるスタートアップ企業も増えてきています(図表2)。
こうしたイノベーティブな企業を創造したイノベーターたちには共通の資質が垣間見えます。それらの共通資質がどのように生まれたのか、「教育」の視点から深堀りし、そのメカニズムに迫ってみたいと思います。
シリコンバレーのテックイノベーターは幼少期~青年期にかけて、どのような過ごし方をしてきたのか?
スティーブ・ジョブズ(Apple社)、ジェフ・ベゾス(Amazon社)、ラリー・ペイジ(グーグル社の親会社であるアルファベット社)、マーク・ザッカーバーグ(Facebook社)、イーロン・マスク(テスラ社)など、著名なテックイノベーターたちが成し遂げたことや世の中にもたらした価値を、「新しい切り口」として生み出したサービスがこちらです(図表3)。
これを見ると、全く新しいものが誕生していると言うより、もともと人々に根付いているものを異なる切り口に定義し直してサービス化していることがわかります。
例えば、人と人とのつながりや関係性、その人へのポジティブな気持ちといった目に見えないものをあえて可視化しオープンにしていくことで、「人の承認欲求」という潜在的ニーズを顕在化させたFacebookは、もともとあったニーズに対して、新たな価値を創出しています。
またアップルは、単に機能の拡張ではなく、今ある機能において、ユーザー体験を徹底的に磨きこみ、それを使うことで「ワクワクする体験」を提供するサービスを作り上げました。
これらは今となっては広く普及して一般的となっているサービスですが、それを最初に考えた人はどのように育ってきたのでしょうか。なぜ彼らは、ほかの人とは異なる「ものの見方」ができたのでしょうか。
幼少期~青年期の過ごし方が「インプット」だとして、彼らの最初の「アウトプット」はいつ・どんな形だったのか、調査結果を見てみましょう(図表4)。彼らに共通して見られるのは、幼少期に親の職業を間近で見て育っていること(親はエンジニアが多い)、親のやることをまねて、幼少期からPCなど、何かお気に入りのことに没頭する体験を経て、やがて自分で何かを生み出していることなどの特徴です。
幼少期には、PCの電源コードを無造作にいじってぐちゃぐちゃにしたり、キーボードを楽器のようにたたいたりするところから始まり、知能や知識が付き始めたころには、それを使ってみるようになります。キーボードでアルファベットを押下したら(インプット)、画面に文字が表示されることを知る(アウトプット)ということです。青年期に差しかかると、自分でPCを使ってソースコードを書き、新たな価値を生み出すようになります。
そして、その初めての成果というのが、皆12歳くらいであるのは驚きです。単にプログラミングができるということではなく、自分の身近なニーズをソースコードというツールを使って具現化する技を習得しているのです。例えば、マーク・ザッカーバーグは12歳で「ザックネット」というソフトを開発しています。歯科医であった父のために作ったもので、来院した患者が受付にあるPCに名前を入力すると、その情報が診察室の父に届いて知らせるアプリケーションソフトウェアです。これによって診察がよりスムーズになりました。
恐らく根底には、「大好きな父が困っている課題を、自分の大好きなツール(PC)で解決したい」といった思いがあったのでしょう。大切なポイントは「何を作るか?」ではなく「何を解決するか?」の問いを自分で作り出し、その問いの解決(答えを出す)までの一連の動作を12歳でやり遂げてしまっている点です。問題を解くことに慣れてきた優秀な大人でも、問いはあらかじめ用意されているほうが簡単です。ザッカーバーグのような一連の思考をやってのけるのは難しいと感じる人も多いのではないでしょうか。