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日本の幼児教育に必要なことは何か? 算数・数学教育研究の第一人者である松尾七重教授に聞く

グローバルな視点から探る、これからの時代に必要な幼児教育 第6回

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2020/11/06 07:00

 2030年の社会・経済を概観し、将来求められる人物像を描きながら、そこから見えるSTEAM教育の本質や幼児教育のあり方について国際的かつ多角的な視点から迫る本連載。今回は、連載著者である花岡直毅さん創設の株式会社プレイシップが共同で実証研究を進める、千葉大学教育学部松尾七重教授との対談をお送りします。松尾教授は「数学教育学」に関する第一人者として活躍しており、今回の対談では、日本における幼児期の算数・数学教育の現状や課題について考察していきます。

千葉大学教育学部 教育学研究科 松尾七重教授(左)、株式会社プレイシップ 共同創設者 花岡直毅さん(右)
千葉大学教育学部 教育学研究科 松尾七重教授(左)、株式会社プレイシップ 共同創設者 花岡直毅さん(右)

現場での属人性に委ねられてきた「算数・数学の学ばせ方」

花岡さん(以下敬称略):松尾先生は長らく「数学教育学」に携われており、「算数・数学をどう教えるか」との観点から、教員を目指す多くの学生に多くの学びの機会や示唆を与えてこられました。さらに保護者や就学前幼児を対象とする算数教育のプログラムを開発されるなど、日本では大変稀有な存在です。そもそも「数学教育学」を専門とされることになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

松尾教授(以下敬称略):子どものころから好きな教科が算数・数学だったため、大学も数学を専攻するのは自然なことでした。特に幾何学が好きで、卒業後は教員になる道もあったのですが、偶然「数学教育学」という学問があることを知り、研究者になることを選びました。

花岡:初めから算数・数学がお好きだったんですね。

松尾:はい、「変わり者」と思われていましたね(笑)。図形教育について取り組む中で、幼児教育から小学校、小学校から中学校といった「接続期」と呼ばれる時期の教育に興味を持ちました。現在は特に幼児期に算数・図形を学ぶ機会を設けることで、就学後の子どもたちに感じ方や考え方、生活の仕方、学び方などによい影響を及ぼすことができると考え、アプローチを続けています。

 一番初めに取り組んだのは、「スペシャルアビリティ(Spatial ability)」という空間に関わる能力の研究です。日本では研究者が大変少なく、心理学に近い内容だったことから数学教育の研究としても認められにくいものでした。しかし、最近は花岡さんをはじめ、多くの方に興味を持っていただけることをうれしく思っています。

花岡:こちらこそ、ご一緒できることを大変光栄に思っております。まずは簡単に数学教育学の概要と、学問としての立ち位置などについてお聞かせいただけますか。

松尾:数学教育学は「どうやって算数・数学を教えるか?」を基本として、その根底にある「何のために数学を教えるのか?」に立ち返り、「授業をどのような構成で行っていくか」「数学の学びをどのように評価するのか」といった実践法をはじめ、「認知、理解、思考」などの心理学に近い部分や、数学教育観、数学教育史や教師論まで含めた学問で、幅広い分野での研究を行っています。

 まだ学問としては新しく、1990年くらいまで教員養成の大学でも「数学は数学の先生が個人的に工夫して教えればいい」といった風潮がありました。ようやく1990年代後半、ほぼ全ての国公立大学教員養成系学部に私のような数学教育学の専門家が配置され、少しずつ受け入れられるようになってきたところです。日本ではマイナーな学問ですが、欧米では各大学・学校に、専門に学んだ経験のある教員が複数名は在籍している、一般的な学問なんですよ。

花岡:私たちも「算数」という教科学習ではなく、子どもたちの数学的思考力や空間認識力などにフォーカスしようと、体系や考え方を探してみたのですが……。海外ではスタンフォード大学やハーバード大学からも論文が多数出ており、一般的な学問として確立しているのに、日本ではほとんど見つからず不思議に思っていました。「数学の学び方」について有識者の方にアドバイスを頂きたく、港区の産学連携プログラムに相談し、専門に研究されている松尾先生をやっとのことで訪ね当てましたから。それにしても、日本で長年マイナーだったのはなぜでしょうか。

松尾:うーん……。正直、私もどうしてなのか詳しくはわからないんですよ。ただ、全ての教科教育学が同様な状況です。

 さらに言えば、数学教育の中でも特に幼児期についてはまったく焦点化されていませんでした。小学校低学年を受け持つ先生が、就学前の幼児に対して興味を持ってレポートを書かれたものをいくつか拝見した程度です。その意味で「幼児期の数学教育」に、日本で初めて学問として取り組んだのは、おそらく私なのではないかと自負しています。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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