「micro:bit」は子どもたちのコンピュータ的思考を育む
その昔、といっても2000年ごろだが、MITメディアラボから「100ドルPC」というコンセプトをベースにしたOLPC(One Laptop per Child)プロジェクトが始まった。当時1000ドル前後だったラップトップコンピュータを100ドルまで安くし、世界中の子どもたちにPCを普及させようとの計画だった。現在PCやラップトップをスマートフォンに置き換えれば、ひょっとするとこの構想は現実のものになりつつあるのかもしれない。しかし、これは単にコンピュータを使ったデバイス(製品)が消費者に行き渡っているだけで、子どもたちの教育の質を高める効果を目指したものではなかった。
いずれにせよ、子どもたちにデジタル環境を公平に提供する試みは、デバイス技術の発達によりさまざまな取り組みとして受け継がれている。スマートフォン・タブレット向けの教育アプリやプログラミング学習アプリ。ロボット教材やビジュアルインターフェイスが強化されたゲームオーサリングソフト、教育用タブレットなどがそれだ。そのひとつに、英国BBCのプロジェクトから始まった「micro:bit」がある。
外観は、リストバンドにも取りつけられるほど小さなプリント基板1枚で構成され、5×5のLEDマトリックス(ディスプレイとなる)、ジャイロセンサー、磁気センサーなどが搭載されている。本体はマイクロUSBまたはBluetoothによってPCなどと接続可能で、PCで作成したプログラムをmicro:bitのフラッシュメモリにダウンロードすれば、さまざまな機器を作れるといったもの。開発アプリはブロックプログラミングが可能なエディターツールを利用する。必要ならC++など高級言語での開発も可能だ。英国ではすでに100万台が小学生に配布され、通常の授業やプログラミング教育に利用されている。2016年には「Micro:bit Educational Foundation(マイクロビット財団)」が作られ、micro:bitはすでに40か国近くの国に展開し、1000以上の教育プロジェクトに採用されているという。
このmicro:bitが日本でも正式にローンチされるとして、マイクロビット財団 CEO ザック・シェルビー氏が、8月5日、6日に開催された「Maker Faire Tokyo 2017」においてその発表と記念講演を行った。自身でも1998年ごろ米国で、コモドール64という古いパーソナルコンピュータを使っていたシェルビー氏は、micro:bit誕生までの背景とプロジェクトの狙いを次のように語った。
「35年ほど前、1981年にBBCは『BBC Micro』というパーソナルコンピュータを発表しました。これは日本でいうPC-8001のようなコンピュータです。そしてmicro:bitは2015年にやはりBBCが発表した、子どもたちにデジタルテクノロジーやコンピューティングをより簡単に学習してもらうための次世代のコンピュータです。2016年には英国内のすべての11歳から12歳の子どもたちに無償で配布しました」
財団は、BBCの他、サムスン、マイクロソフト、ARM(最近ソフトバンクが買収した英国のマイクロプロセッサメーカー。micro:bitのプロセッサもARM製である)といった企業の支援によって活動しており、シェルビー氏の夢は「すべての子どもたちがMaker/イノベーターになること」だそうだ。しかし問題もあるとシェルビー氏は述べる。
「子どもたちがこれから就く仕事は、おそらくこれまでにない仕事や職業になるでしょう。新しいテクノロジーやイノベーションによってもたらされる未来に対して、誰も知らないことを学ぶ必要があるのです。この問題を解決するためにデジタルスキル、コンピュータ的思考(Computational Thinking)がとても重要で、micro:bitがその助けとなると思っています」