はじめに
私は埼玉県の公立高校の国語の教員です。現在の勤務校はいわゆる「普通」の進学校で、県のICT推進モデル校のような学校ではありません。したがって、潤沢な資金もないというのが実情です。
本連載では、本当にゼロからICT教育を実践していく先生に向け、失敗を含めた私の経験についてお伝えできればと考えています。生徒のためにどこまでICTを使用した授業を組み立てることができるか……これからICT教育に取り組んでいこうとする方の一助となれば幸いです。
「ICT教育」をやりたい! でも何をすればいい?
学習指導要領の改定に伴い、現場では「ICTを活用した授業を積極的に実施しよう」といった声が上がっています。もちろん、次期学習指導要領の総則「第3款 教育課程の実施と学習評価」にも「コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」と記載されています。私たち教員は、学習指導要領に沿って授業を行わなければならないので、従わざるを得ません。
しかし、「ICT教育」をしっかり理解し実施している人は、いったいどれくらいいるのでしょうか。そもそもICT教育とは何をする教育で、ICTを活用するとどのようなメリットがあるのか、戸惑っている方も多いかと思います。
ICTを活用した授業をしようと考えて書店に行くと、関連する本が山ほど並んでいます。その本の多くが、ICT機器を使った授業実践集です。これを読んで「いざ実践」と考える先生も多いのではないでしょうか。
すると本には、「まずPCにHDMI端子があるか、確かめてください。なければD-sub端子で映像を出力して、音声はWi-Fiでスピーカーにつなげ、実践しましょう」という文章が出てきます。こちらを解読するだけでも苦労している方がいらっしゃるのではと思います。
「PCはパソコンのこと? HDMI端子やD-sub端子って何だろう?」
「Wi-Fiってインターネットをするために必要なものじゃなかったっけ?」
このように用語がわからないため、最初のスタートラインに立つこともできず挫折する先生も多いのです。
「IT」と「ICT」の違いとは
世間一般では「ITを駆使した」「IT業界で活躍している」など、「IT」という単語をよく耳にしますが、教育業界では「ICT」という言葉をよく用います。その違いはどこにあるのでしょうか。
ITは「Information Technology(情報技術)」の略で、PCのハードウェアやアプリケーション、インターネットなどさまざまなものを含み、情報技術の部分を指します。
一方で、ICTは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、通信技術を活用したコミュニケーションを意味します。つまりICTは、情報を伝達することを重視し、教育や医療などにおける技術の活用方法、またはその方法論といったものを指します。そのため教育機関では、ICTという言葉が用いられることが多いのです。
どんな授業が「ICT教育」となるのか
それでは、何をすればICT教育と言えるのか考えていきましょう。先ほど説明した定義では、「情報を伝達するためにITを用いて、コミュニケーションを取っていく」ということでした。
恐らくすぐに頭に浮かぶのは、資料や教科書本文を投影する授業でしょう。資料をインターネットで検索し、その画像を生徒に見せる。もしくは、教科書の本文を投影してそこに書き込んでいく。こうした授業は、すでに実践している方も多いと思います。少し前は、オーバーヘッドプロジェクター(OHP)などを駆使して行われていましたが、今ではパソコン(タブレットやスマートフォン)とプロジェクターを使う先生が多いかと思います。ICT教育をこれから始める場合は、こうした授業から始めていくことをオススメします。
「ICT教育」が必要なのはなぜ? 生徒目線で考える
「それくらいのことだったら、板書で十分だよ」
「新しくICT教育なんてやらなくてもいい」
こんな意見も出てきます。先ほどの例で考えると、
「教科書の本文を投影するくらいなら、板書してそこに書き込んでいくのと変わらない」
「インターネットで資料が見つかれば、全員分印刷して配布すればいい」
ということです。おっしゃっていることはわかります。私も以前はそう考えていました。しかし、生徒の目線で考えた場合でも、果たして同じと言えるでしょうか。
私は約10年間教員をしています。最初は、黒板とチョークを用いて授業をしていた時期もありましたが、その授業スタイルは最初の1年もたたずに終わりを迎えました。つまり、10年前からICT教育を進んで行っているのです。そのきっかけとなったのは、私が板書中、生徒の状態を見たときでした。