日本よりも先駆的、韓国の「教育の情報化」
はじめに、韓国の「教育の情報化」を紹介する同セッションのコーディネータである山西潤一氏(日本教育工学会会長、富山大学名誉教授)による説明が行われた。
山西氏:韓国に「KERIS(ケリス、韓国教育学術情報院)」という組織があります。国直轄の外郭団体で、私も何度か訪問させていただきました。本日ご登壇いただいたCHO先生に発表していただくなど、韓国の教育の情報化を私は何度か取り上げてきました。
学校教育の現場におけるeラーニングやユビキタスラーニングについて、実は韓国は日本よりも先駆的に取り組んでいて、デジタル教科書についても、日本よりも数年は先んじて、開発が進められてきました。ここ最近は、進化の速度が少しゆるまったように感じていますが、当初の計画では、2015年にはすべての学校の授業にデジタル教科書を活用する、という政策で進んでいたと思います。
韓国ではサイバー学習という言い方もされていますが、2007年から2011年くらいの間に多くの教科でデジタル教科書が作られ、2015年からは、より広範囲でデジタル教科書を使用する、とされていました。また、韓国のデジタル教科書の特徴として、教師用・生徒用で分けるのでなく「どちらでも使える」ことが挙げられます。
130数校を実証実験校とし、普及を目指していたデジタル教科書は、現在は新しいかたちで開発が進められていると聞いています。そのあたりについて、ICTの教育理論を含め、学校の現場はいったいどうなっているのか、実践的な活用事例の報告などをお願いいたします。
「デジタル教科書」と生徒一人ひとりに対応する「学習ポートフォリオ」
まず、KERIS(韓国教育学術情報院)の未来教育研究部長で主任研究委員のKIM JIN SOOK氏が登壇した。
KIM氏:先ほど、紹介いただいたように「KERIS(韓国教育学術情報院)」というのは、韓国の教育の情報化を専門に扱い、サービスを開発して提供している政府の機関です。世界的に見ても、教育の情報化を専門に扱う政府機関があるのは、韓国が唯一だと思います。
2011年、タブレット端末であるスマートパッドを教育に活用するスマート教育の策定を支援する仕事に、私は携わりました。また、昨年は教育の中長期的な発展を目指す「未来教育2025」という政策が策定されました。
みなさまもご存知のように、農耕社会では徒弟教育がありました。技術の伝授に徒弟制度は有効だったのです。その後、蒸気機関を動力とする第1次産業革命にはじまり、電気を中心とした第2次産業革命、そして情報通信や先端技術による第3次産業革命に時代に突入し、インターネットやAIが活用される第4次産業革命へと社会が移り変わっています。
毎年スイスで開かれるダボス会議でもビッグデータ、IoT、クラウド、モバイルなどが取り上げられ、すべてがつながることでより知的な社会に変わり、知の情報技術がさらに発展していくとされています。教育分野においても、世界の名門大学の授業などを無料で受けられるMOOC(ムーク)が広く知られるなど、大きな変化をもたらしています。
アメリカでは、世の中にある仕事の3割は将来的になくなると言われており、現在7歳の子どものうちの68%は、今はまだ知られていない仕事に就くだろうという予測もたてられています。そのような状況のなか、現在の学校教育について、韓国では反省の声があがりました。
ICTを利用したカリキュラムはそんな時代背景において生まれ、韓国ではデジタル教科書、サイバー学習を軸に、大きな目標としてオーダーメイド型の学習の実現を目指しています。学習というのは本人の関心、需要、興味、水準などに合わせ、自ら学習を選択できることが理想のかたちでしょう。
それらを実現するため、プログラムの開発はもちろんのこと、ワイヤレス・インフラや個別のデバイスの環境改善も行われています。すでにデジタル教科書は小・中・高校において活用されていますが、新たなカリキュラムのものを2018年は小学3~4年生と中学1年生、2019年は小学5~6年生と中学2年生、2020年は中学3年生というように段階的に導入していきます。
デジタル教科書には3つの特長があります。第1にマルチメディアのツールとしてさまざまな資料を提供でき、ARやVRの新技術に対応することで、よりリアルな学習ができます。第2にコンテンツをただ見るだけでなく、インタラクティブな使い方が可能で、相互作用が生まれます。第3に学習分析がしやすいこと。単純にコンテンツを消費するだけでなく、たとえば科学実験のデータを教科書に記録し、個人別・グループ別に結果分析を行うなど、学習分析サービスが可能です。
さらに、デジタル教科書は学生一人ひとりの学習結果を分析し、学習内容に応じてカスタマイズすることができ、「学習ポートフォリオ」のようなものにしていくこともできます。つまり、究極のオーダーメイド個別型の学習を実現します。
また、授業を行う直前に配信された新聞記事にハイパーリンクを張ることで、まさに最新のトピックスと連動させ、リアルタイムな学びが実現できます。
3年以内にすべての学校(小・中・高校)に各校60台のPCを導入することを考えています。この数は、科学・社会・英語、そしてソフトウェアについての学習をする上で、生徒たちが順番に勉強していくために必要だと割り出した数です。
ソフトウェアやプログラミング教育についていうと、小学校ではコーディングのスキルを教えるのではなく、情報に関するモラルや倫理意識を学び、中学校では問題解決について学び、簡単なアルゴリズムの開発を勉強します。そして高校では、より専門的に取り組み、アルゴリズムやプログラムの設計を学び、職業につながる内容にも触れます。
それらのICT教育を推進するには教える側の力量や準備も不可欠で、そのための教員研修を強化しています。すべては人材育成に関わる問題であり、これからは日本も韓国も情報を共有することで、たがいに成長していくきっかけになれたらと思います。