「子どもは、大人が思うようにはテクノロジーを見ていない」―ウォルター・ベンダー氏
OLPC(One Laptop Per Child)の活動は、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボが中心となって10年以上前から開始した。その名の通り、「世界中の子どもたち一人ひとりに1台のラップトップ」を届けられるよう、安価なPCを開発し、教育を後押しするプロジェクトは、現在も進行している。「XO」と呼ばれるラップトップには、「Sugar」というソフトウェアが搭載されており、子どもたちの学習や制作に役立つよう設計されている。
改めてOLPCの活動やミッションを見てみると、その目的は「貧しい国の子どもたちのために安価なPCを開発する」というボランティア的な側面にとどまらないことが分かる。設立者のひとりであり、MITメディアラボ初代所長のニコラス・ネグロポンテ氏は、「これはノートパソコンのプロジェクトではない。教育のプロジェクトだ」と断言しているのだ。
デジタルを活用したICT教育や、プログラミング教育が注目される昨今。テクノロジーを使いこなす能力は、教育に取り入れるべき普遍的なスキルであるとの風潮が広がる中、その先駆けとも言える活動だ。
OLPCの共同設立者であり、現在「Sugarラボ」の代表を務めるウォルター・ベンダー氏は、今回の講演でまず「テクノロジー」とはどういうものかについて触れた。
ベンダー氏いわく、自分の孫はコンピュータもスマートフォンも、さらにはロボットさえも、テクノロジーとは認識しておらず、日常のものと見なしているという。
「私たちが学びや教えることについて、また学校や変革について考える時は、子どもは、大人が思うようにテクノロジーを見てはいない点を考慮しておくべきだと思います」(ベンダー氏)
大人はテクノロジーを特別なものと意識することも少なくないが、子どもにとってそれは、自分が生まれた時から当たり前に存在する技術。テクノロジーは、当たり前に日常にあるものとして捉えている。この事実を頭に入れて、教育について考えるべきだと、ベンダー氏は前提を共有した。
壊れないPCはない、でも「修理できるPC」なら実現できる
2005年頃、ラップトップコンピュータと言えば、最も安いものでも1000ドル以上はしたという。そんな中ベンダー氏は、なるべく低価格で、どんな子どもにでも使えるデザインを目指し、OLPCの最初のコンピュータ「XO」を開発した。
「このラップトップに、われわれのアイデアを埋め込んでいる」とベンダー氏。タイのチェンマイ近くで、子どもたちが川辺でXOを使っている写真をスライドに映した。必ずしも机に座って使うものではなく、リアルな日常の中で使えることを示す良い例だ。
また、ラップトップは、子どもが自分で修理できるようにデザインされており、余分なネジをラップトップの中に入れている。ベンダー氏は「『全く壊れないラップトップ』は作れません。でも子どもが自分で修理できるラップトップは作れるんです」と語る。実際、2007年に配布したラップトップは、子どもたちの手によって修理を繰り返され、今でも使われているという。
また、エチオピアの子どもたちが太陽光で動くラップトップを使っている様子も紹介された。ベンダー氏は「このようなクリーンなラップトップは今までに一度もない」と強調したうえで、昨今の一般的なラップトップでは、新しく買い替えるたびに電力消費量が増えている点を指摘。業界全体が一度方向性を見直す必要があるのではないか、と見解を示した。