派遣モデル事業の可能性
──文部科学省は、教員の産休・育休や病気による欠員に対し、塾講師や元教員、企業勤務の免許保有者などを臨時教員として派遣するモデル事業を、2026年から開始する方向で検討しているようです。これについてはどう見ていますか?
賛否両論あると思いますが、非常に前向きな動きだと思います。教員採用試験の倍率は2000年度には13.3倍ありましたが、2024年度には3.2倍にまで下がっています。これまでであれば試験に合格できなかった人が臨時教員として現場を支えていましたが、その層が薄くなり、欠員補充が難しくなっているのが現実です。そうした状況を踏まえると、事前に免許保有者を登録しておき、必要なときに派遣できる仕組みを整えるのは大きな意味があります。
英国のサプライティーチャー制度を参考にしていると言われていますが、これはまさに誰かが休んでも仕組みで回せる体制をつくるための第一歩です。今までは個人のがんばりや周囲の犠牲で成り立っていましたが、これからは「制度として補う仕組み」を整える必要があるでしょう。
──懸念される「質の担保」についてはどうでしょうか?
そこは確かに課題です。免許を持っているとはいえ、塾講師や企業勤務の方が学校現場にすぐに適応できるかというと、そう簡単ではありません。ですから、登録前の研修の設計が大切になるでしょう。
同時に、チームで支える仕組みを整えることも欠かせません。例えば派遣の先生が入った場合でも、学年や校内で情報を共有しながらサポートする体制が整っていれば、子どもたちにとって安定した学びの環境を維持できます。クラスの運営をチーム前提にすることで、個人に任せきりにしない体制をつくることが可能になります。
派遣制度に対して批判的な意見も出ていますが、重要なのは、限られた人材をどう活用し、チームとして機能させるかです。理想は担任がフルタイムでクラスを持つことですが、少子化と人材不足の中でそれを維持するのは難しい。だからこそ、流動的な人材をどう設計して取り込むかが重要だと考えています。
──最後に、子育てとキャリアが両立できる教育現場の価値について教えてください。
「子どもを育てながら働ける学校」は、教育の未来を支える基盤になります。教員がキャリアを継続できれば、経験の蓄積が教育の質向上につながりますし、現場自体が社会に対して両立モデルを示すことになります。
この課題は先生だけのものではなく、民間でも広く起きています。ただ、民間では出産を機にキャリアダウンせざるを得ないケースがまだ多い。一方で教員は年齢とともに年収が上がり、復帰もしやすいという強みがあります。その強みを活かし、子育てとキャリアの両立を前提にした仕組みを整えていくことが、教育改革を進める上で大きな一歩になるでしょう。

おわりに
子育てとキャリアの両立は、今の社会全体が抱える課題です。その中で、子どもを育てる学校現場が、働く子育て世代に優しくないままでいいのでしょうか。大切なのは、制度や文化の問題として片付けるのではなく、人事と組織設計の課題として再構築することです。余白を持った組織づくりや、多様な働き方を前提にした仕組みを整えることで、先生自身が安心してキャリアを続けられるようになります。そのことが、教育の質を高め、ひいては社会全体の働き方をより持続可能なものにしていく第一歩になるはずです。