余白を前提にした組織づくりを
──なぜそうした課題が起きるのでしょうか?
一番大きいのは、学校という組織の構造的な問題です。長時間労働や雑務の多さが前提になっていて、家庭との両立を阻む要因になっています。個人ががんばる前提のもと、ギリギリで回しており、バッファ(余白)がない組織設計となっているのです。
誤解してはいけないのは、制度自体は決して悪くないということです。例えば、時短勤務や非常勤といった「働き方のグラデーション」があるのは大きな強みで、社会全体を見ても、ここまで多様な働き方が制度として実現されている業界はそこまで多くありません。課題は、実際にその制度がうまく機能していないということ。つまり、制度そのものの不備ではなく、組織設計と人事のあり方が追いついていないことが根本にあると考えています。
──具体的にはどのような改善が可能でしょうか?
一番は、欠員が出てもすぐに補充できる仕組みを整えることです。本来であれば少し人に余裕がある状態をつくることで、さまざまなライフステージにある先生が働きやすくなるはずです。しかし現状はギリギリの人数で回しているため、誰かが休むと一気に負担が広がってしまいます。
正規の先生に加えて、非常勤や時短といった流動的な人材をあらかじめ組み合わせる組織設計こそが必要なのではないでしょうか。余白を持った体制にしておけば、欠員が出てもリカバリーできますし、働き方の選択肢も広がります。かつては「先生は毎日遅くまで働くことが美しい」とされてきた時代もありました。でも、人口構造や社会の価値観が変化した今、その前提で現場を設計すること自体が難しくなっています。これからは個々のがんばりに頼るのではなく、余白を前提にした組織づくりが求められているのだと思います。
──非正規の方の待遇については課題もあると聞きます。
はい、そこは大きな論点です。学校によっては「正規の方がえらい」という感覚が残っていて、非常勤の先生や外部スタッフが軽く扱われてしまうケースもあります。実際には、そうした人たちが現場を支えているのに、報酬や立場の面で十分に評価されていない面があるんです。
大切なのは、一定納得できる水準の報酬や待遇を保障することです。非常勤や外部人材を安く使い倒すのではなく、適切な待遇を整えることで、むしろ安心して力を発揮してもらえるようになります。そうすれば学校全体の運営も安定します。
人材不足が続く今、正規雇用だけに依存して学校を回すのは現実的ではありません。正規と非常勤をいかに組み合わせて、チームとして機能させるかということが、子育てとキャリアを両立できる教育現場をつくるために欠かせない視点だと考えています。
