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イベントレポート(アクティブラーニング)

AI時代に子どもたちが身につけるべき「12の学びの基本項目」とは? 元慶應義塾長の安西祐一郎氏が語る

New Education Expo 2025「AIの時代に何をどう学ぶか」レポート

世界で広がる教育現場での生成AI活用

 次に、安西氏は「生成AIをどう使うか」という点について解説した。AIは人間が持つ知的機能と同等、あるいはそれ以上の機能を情報処理によって実現するシステムである。深層学習を基盤とする生成AIは、多大な資金と人間の介入によって構築された巨大システムであり、その爆発的な普及は国家安全保障から経済、社会、雇用、そして教育構造まで、現在進行形であらゆる領域に影響を与えている。

 教育におけるAI活用として、安西氏は日本や海外での事例を紹介した。例えば、東京都では2025年5月、都立学校全256校において生成AIサービス「都立AI」の運用を開始した。また、韓国ではAIを搭載したデジタル教科書の配布が始まっている。一方で、教育先進国とされるフィンランドでは一部の学校がデジタル教科書から紙の教科書へ転換し、シンガポールは小学生への端末配布を見送るなど、国ごとに異なるアプローチがとられている現状も伝えた。

 そのうえで安西氏は「入試問題など、パターン化された問題を解くのはAIの得意とするところであり、今後の教育はこのようなAIの能力を超えなければいけない」と強調する。2010年に安西氏が著した『「デジタル脳」が日本を救う 21世紀の開国論』で描かれたデジタル技術の教育へのインパクトは多くが実現したが、「一人ひとりの生涯に最良の教育を」という教育目標や、教育格差への対応はまだまだ実現されていない。「デジタルやAIの導入は、家庭や地域による格差をさらに拡大させる可能性もある」と安西氏は指摘した。

 では、具体的な「生成AIを活用した『学び』」とはどのようなものなのか。それは「AIを利用しつつ、AIができないことを身につけていく」ことだと、安西氏は述べる。例えば、情動を伴う体験による学び、そしてコミュニケーションなど社会的なスキルを必要とする学びだ。これらは、まだAIが苦手とするものである。

生成AIを活用した「学び」の例
生成AIを活用した「学び」の例

 学習者から見た場合、「批判的な思考力」のもと生成AIを活用することも非常に大事であるという。また、課題として「学びのデータは本来、児童生徒学生や保護者のものであるべきなのに、曖昧になっている点がある」ことも挙げた。

「AIが苦手」な、人間が学ぶべき12の基本項目

 安西氏は、AI時代の12の「学びの基本項目」と、それらに対する「教え方」のポイントを示した。

12の「学びの基本項目」の教え方
12の「学びの基本項目」の教え方

 教える側としての重要な点のひとつが、教材の整備だ。「国語なら国語の教えるべきポイントを教師が理解したうえで、学ぶ側が身につくような教材を作るのは教師の役割だ」と、安西氏は解説する。さらに、生成AIを活用して、学習過程における学習者のつまずきを把握したり、個々の目標を学習者が設定できるよう促したりするなど、これまでの教育の現場とは異なった「教え方」が求められてくることを指摘した。

 次に「学ぶ側」の基本項目は、以下の12項目がある。これらは、国算社理といった特定の学校科目にとらわれず、学び方そのもののスキルであるという。安西氏は、全国学力・学習状況調査などで実際に児童生徒に出題された問題と結果を例に、それらが必要な理由を示した。

1.知識を鍛える

 覚える知識ではなく、応用し活用できる知識を身につける。

2.経験から学ぶ

 体験を何度も繰り返しながら、内省して一般化し、構造化する。体験を通して経験にし、経験を通して「使える知識」を獲得していく。

3.認知バイアスから脱却する

 情報の鵜呑みを避け、批判的思考力を養う。正しい情報かどうかを吟味し、一次情報を確認したり、類似の情報を考えてみたりする。

4.知識をチャンク化するスキルを学ぶ

 知識を意味的な塊(チャンク)として整理し、全体を把握する能力を養う。

5.合理的思考のスキルを身につける

 論理的思考に加え、理屈に合い一貫性のある思考方法を習得する。

6.「目標を発見する」体験

 自ら目標を見つけ出す能力を育む。

7.自分の得意・不得意を理解する

 自己理解を深め、自身の強みと課題を把握する。

8.協働学習に参加する

 観察力、チームワーク、メタ認知力、並行処理能力、臨機応変力など、他者との協働を通じて多様な力を養う。

9.歴史の見方と世界動向の見方を学ぶ

 多角的な視点から歴史や世界情勢を分析する能力を養う。

10.尊敬できる人を見つける

 模範となる人物から学び、自己成長の糧とする。

11.「ことばの力」を身につける

 呼吸やリズムを含めた「言葉」で他者に伝える力を磨く。

12.社会的関係を築く力

 共感や社会的関係構築といった、AIが苦手とする領域の能力を養う。

 例えば、1番目の「知識を鍛える」では、全国学力・学習状況調査において平行四辺形の面積を求める問題の正答率は85%だったが、図を使った文章題では18%にまで下がってしまった。安西氏は「問題文にさまざまな情報が入ることで、平行四辺形の公式を使えばいいことが児童には理解できない」と指摘したうえで、「こうした数学や物理の基本となる『抽象化』を身につけるための問題は、AIを活用すれば容易に類似問題を複数作ることができる」と、AIの活用例を提示した。

 これらの「学びの基本項目」は、個別科目の学習と連携させ、デジタル技術を活用しながら育成していくことが今後の教育の課題であるという。

次のページ
単一の物差しから、多角的な「ベクトル評価」へ

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この記事の著者

相川 いずみ(アイカワ イズミ)

 教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、教育におけるデジタル活用を中心に、全国の学校を取材・執筆を行っている。渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足しプログラミング体験教室などを開催したほか、シニア向けサポートを行う渋谷区デジタル活用支援員としても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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