なぜ今、先生の「越境」なのか
──そもそも「越境」とは何でしょうか? なぜ今必要なのでしょう?
「越境」とは、インターン、兼業、ボランティアなどさまざまさまざまな形で学校の外に出ることを指します。外に出て新しい考え方や価値観に触れ、それを学校に持ち帰って日々の教育実践に活かしていく。そのような往復の中で、自分自身もアップデートされ、より子どもたちと深く向き合えるようになる。越境の本質は、そうした循環にあります。
社会や子どもたちの環境が大きく変化していることにより、学校教育は今、これまでの常識ややり方だけでは対応することが難しくなっています。保護者のニーズも多様化し、学び方や働き方、生き方にもアップデートが求められる時代。そうした中で、学校の外にある視点に触れ、先生自身のマインドやスキルを柔軟に広げていくことが、これまで以上に重要になってきています。だからこそ、「越境」なのです。
──具体的に「越境」をされている先生の事例を教えてください。
まずご紹介したいのが、現在はSchool Tech企業に所属しながら、教員の複業・兼業支援に取り組んでいる特定非営利活動法人越境先生の代表を務める前田央昭(まえだ・ひろあき)さん。公立中学校の理科教員として8年間勤務した後、小学校の非常勤講師をしながら、教育系プラットフォームでの講師、地域NPOとの協働、教育系事業者の広報支援、Webページ制作、YouTube配信、講演など、さまざまな「越境」を実践してきました。
前田さんいわく「越境の価値は、外の世界で得た視点を授業に活かせること」。教科書だけでは伝えきれない「生きた学び」を、子どもたちに届けることができる。そして何より、挑戦し続ける先生の姿そのものが、子どもたちにとって最高の教材になるのです。

──なるほど。非常勤講師という働き方だと時間的にも制度的にも、いろいろ挑戦ができそうですね。正規職員の場合には、越境は難しいのでしょうか?
たしかに、正規職員の場合時間的・制度的な制約はありますが、越境にはさまざまさまざまな形があります。企業インターンや地域活動、学びの場づくりや対話の機会の創出など、やり方は人それぞれです。
例えば、東京の公立小学校教員である二川佳祐(ふたかわ・けいすけ)さんは、社会課題解決に取り組むベンチャー企業、株式会社ボーダレス・ジャパンでインターンシップを経験。教育委員会の研修制度を活用し、有給を組み合わせて企業現場に5日間身を置きました。インターン期間中には、貧困やホームレス支援の現場を見学し、社会課題のリアルに直に触れる体験を重ね、教室の中では見えづらかった子どもたちの背景を想像する視点を得たといいます。さらに、教育関係者と社会人が分野を超えて学び合う「BeYond Labo」を主催し、「大人が学びを楽しめば、子どもも学びを楽しむ」という価値観を広げています。
また、高知県の私立中高一貫校で教壇に立つ野崎浩平(のざき・こうへい)さんは、「会いに行けるセンセイ」という活動を展開。週に一度、コワーキングスペースに在席し、「学校の先生と話してみたい」と考える人が、自由に相談や対話ができる場を開いています。この取り組みの背景には、「学校の先生に相談したくても、時間的・心理的なハードルがある」といった保護者の声がありました。学校という枠を越え、教員が地域とゆるやかにつながる、新しいあり方を模索しています。
このように、立場や雇用形態にかかわらず、越境の可能性は広がっているのです。